読書の愉楽

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ディエゴ・マラーニ「通訳」

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なかなかの怪作だ。物語の進行方向が奇妙な具合にねじれていくのがおもしろい。

 

物語の主人公はジュネーヴの国際機関で同時通訳をしているセクションの責任者であるフェリックス・ベラミー。彼の部下である一人の通訳が仕事に支障をきたすほど奇妙な行動に出ていることが問題になる。

 

通訳の途中でいきなりわけのわからない言語で話し出すというのだ。十五もの言語を操る有能な通訳者の身に何が起こったのか?通訳者と話をしたベラミーは、次第に言語の狂気に蝕まれていくことになる。

 

またまたジャンルを特定できない類の本を読んでしまった。幻想小説のようでもあり、ミステリ的な展開もあり、ホラーの要素も感じられる。けっして、リーダビリティに秀でた本だとはいえないが、読了してみると,なんとも不思議な気持ちにさせられる。

 

何にもましておもしろいのは、本書のテーマである原初言語の真相だ。このアダムが話していたという未知の言語がいったいどういうものなのかわかったとき、ぼくは本書の評価を一気に高めた。

 

だって、ねえ、まさかこんなことになってるとは夢にも思わないもの。ぼくはこれを読んでスタージョンの短篇「地球を継ぐもの」を思い出してしまった。この短篇はソノラマ文庫から出ていた「影よ、影よ、影の国」に収録されたっきりなので絶版になってしまったいま手軽に読むことはできない。だからネタバレにはならないだろう。

 

他にも、言語障害を外国語学習によって治癒しようとする医師が登場したり、そこで治療を受ける奇妙な患者がいたり、主人公ベラミーがだんだん落ちぶれていき、ルーマニアでは『ブコヴィナの怪物』として恐れられる犯罪者になったりと、かなりおもしろい展開に驚いてしまった。

 

自らもユーロパントなる人工言語を考案するほど言語に対して並々ならぬ関心をよせる著者ならではの快作だといえるだろう。

 

それにしても多言語を操る同時通訳者の頭の中って、どういう構造になっているのだろう?日本語しか話せないぼくにはまったく未知の世界だ。そういった意味では、本書の世界は多分にSF的なのだ。

 

う~ん、なんともユニークな本だったなぁ。