読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

中村融編スタージョン、チェスタトン他「夜の夢見の川」

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 〈奇妙な味〉がいったいどういうものなのかと誰かにきかれたら、ぼくはそれを明確に答える術を知らない。でも、自分の中では漠然と〈奇妙な味〉というテイストがもたらす感覚を認識していて、たとえて言うなら、匂いで嗅ぎ分けているようなものなのだ。でも、それは非常に曖昧な分別であって、その作品がホラーかといわれればそうだし、ミステリかといわれればそうだし、SFかといわれればそうだといわざるを得ないものも多々ある。本書には12の作品が収録されている。収録作は以下のとおり。

 「麻酔」 クリストファー・ファウラー

 「バラと手袋」 ハーヴィー・ジェイコブズ

 「お待ち」 キット・リード

 「終わりの始まり」 フィリス・アイゼンシュタイン

 「ハイウェイ漂泊」 エドワード・ブライアント

 「銀の猟犬」 ケイト・ウィルヘルム


 「アケロンの大移動」 フィリップ・ホセ・ファーマー

 「剣」 ロバート・エイクマン

 「怒りの歩道―悪夢」 G・K・チェスタトン

 「イズリントンの犬」 ヒラリー・ベイリー

 「夜の夢見の川」 カール・エドワード・ワグナー

 豪華で貴重な顔ぶれだ。こういうアンソロジーを編める中村融氏はほんと素晴らしい目利きだよね。各短編それぞれのコメントは長くなるので特に気に入った作品について少し。まず驚いたのが巻頭の「麻酔」。これは、強烈なアッパー・カットだった。まあ、読んで驚いてみて。これは奇妙な味というより悪夢そのものだけどね。「終わりの始まり」も、とんだ奇妙話だ。何年も前に死んだはずの母親から電話が掛ってくるのだから。信じられない娘は、まわりに確かめるがまわりのみんなも母が死んでいる事実を認めない。主人公の娘だけが、母は死んだという記憶があるという奇妙な状況の中、母の家で夕食会が開かれ、みんなが招待されるのである。「銀の猟犬」は、本書の中で一番気に入った作品。二匹の美しい銀色の犬につきまとわれるエレン。犬は何の象徴なのか?なぜエレンにつきまとうのか?答えはないが、心に浮かぶ映像と共に妙に残るものがある作品だ。
 表題作は、その幻想的なタイトルからは想像もつかない官能的で奇妙な物語。これも一読して驚いた。まだまだこんな未見の傑作があるのかと思うと、すごく居心地の悪い気分になる。どうか、中村融氏にもっともっと発掘紹介していただきたいものである。