ぼくは、なぜか死んでいる。
死んでしまって、幽霊になっている。
そして、幽霊のまま現世の世界を彷徨っている。
幽霊の目からみる現世の世界はおもしろい。世界は青い色のサングラスを通して見ているみたいに、真っ青なのである。
そして驚くなかれ、現世には幽霊にしかわからない標識や、落書きがそこら中に書かれてあるのだ。
ぼくが今ただよっているのはどこかの地下街なのだが、人が歩いていないところをみると深夜なのだろうか?
フワフワただよっていると、すぐ横の壁に
わたしは女の味を知らずに死んだのが無念な、ナマグサ坊主だ |
とか
絞められた首が、まだ痛む 誰か助けて |
とか
鬼がくるよ |
などといった落書きが書き連ねてあった。
思わずゾッとして、その場を離れると前方に女の人が座って泣いている。
おっ、人間かと思ったが、同業者だった。
ぼくは近よって声をかけた。
「どうしたのですか?なにを泣いているのですか?」 |
女の人は、クルッとこちらを向いて
「そんなことはないでしょう、ぼくがついていってあげますから、もう一度息子さんのところへ行きましょう」 |
ぼくがそう言うと、女の人はうなづいて立ち上がった。言い忘れていたが、女の人は五十くらいのふくよかなおばさんだった。
次の瞬間ぼくとおばさんは、どこかの劇場みたいなところへ現れる。
ステージに明かりがついていて、光線が目にまぶしいくらいなのだが、客席に人はあまりいない。
そのかわり、ステージには沢山の人がいてうごめいている。
なにかのリハーサルなのかと思っていると、かたわらに浮いていたおばさんがスーッと客席のある人物のかたわらによった。
その人物が息子らしい。
よく見ると、驚いたことにそれは玉置浩二だった。
ぼくは見かねて、おばさんのかわりに彼に話しかけた。
ぼくはなぜぼくらがここに来たのか、なぜこんな姿になってしまったのか、などなど色々彼に説明した。
彼は、なかなかぼくの言うことに耳をかたむけなかったのだが、一生懸命話しけるうちにやがてぼくに気がついてくれた。
彼はマクドナルドの袋を受け取ってくれたのだが、なぜか笑ってそんな話はウソだとか、またからかったりしてなどと言って信じようとしない。
そこでぼくは、彼の母親をズイッと彼の前に押しだした。
すると彼はいきなり真面目な顔になって涙をながしはじめた。
と、そこで目が覚めた。