読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

玉置浩二の母

 ぼくは、なぜか死んでいる。

 

 死んでしまって、幽霊になっている。

 

 そして、幽霊のまま現世の世界を彷徨っている。

 

 幽霊の目からみる現世の世界はおもしろい。世界は青い色のサングラスを通して見ているみたいに、真っ青なのである。

 

 そして驚くなかれ、現世には幽霊にしかわからない標識や、落書きがそこら中に書かれてあるのだ。

 

 ぼくが今ただよっているのはどこかの地下街なのだが、人が歩いていないところをみると深夜なのだろうか?

 

 フワフワただよっていると、すぐ横の壁に
 
わたしは女の味を知らずに死んだのが無念な、ナマグサ坊主だ

 とか

 

絞められた首が、まだ痛む 誰か助けて

 とか

 

鬼がくるよ

 などといった落書きが書き連ねてあった。

 

 思わずゾッとして、その場を離れると前方に女の人が座って泣いている。

 

 おっ、人間かと思ったが、同業者だった。

 

 ぼくは近よって声をかけた。

 

「どうしたのですか?なにを泣いているのですか?」

 女の人は、クルッとこちらを向いて

 

「息子にこれを渡そうと思っているのですが、どうしても私に気づいてくれないのです」

 といって、手にもっているマクドナルドの袋をぼくに見せた。

 

「そんなことはないでしょう、ぼくがついていってあげますから、もう一度息子さんのところへ行きましょう」

 ぼくがそう言うと、女の人はうなづいて立ち上がった。言い忘れていたが、女の人は五十くらいのふくよかなおばさんだった。

 

 次の瞬間ぼくとおばさんは、どこかの劇場みたいなところへ現れる。

 

 ステージに明かりがついていて、光線が目にまぶしいくらいなのだが、客席に人はあまりいない。

 

 そのかわり、ステージには沢山の人がいてうごめいている。

 

 なにかのリハーサルなのかと思っていると、かたわらに浮いていたおばさんがスーッと客席のある人物のかたわらによった。

 

 その人物が息子らしい。

 

 よく見ると、驚いたことにそれは玉置浩二だった。

 

 おばさんはその人物のとなりに座るやいなや、マクドナルドの袋を握りしめながら、一生懸命に息子に話かけるのだが、玉置浩二はといえば何も知らぬげに、笑いながらステージに向かってなにやら話をしている。

 

 ぼくは見かねて、おばさんのかわりに彼に話しかけた。

 

 ぼくはなぜぼくらがここに来たのか、なぜこんな姿になってしまったのか、などなど色々彼に説明した。

 

 彼は、なかなかぼくの言うことに耳をかたむけなかったのだが、一生懸命話しけるうちにやがてぼくに気がついてくれた。

 

 彼はマクドナルドの袋を受け取ってくれたのだが、なぜか笑ってそんな話はウソだとか、またからかったりしてなどと言って信じようとしない。

 

 そこでぼくは、彼の母親をズイッと彼の前に押しだした。

 

 すると彼はいきなり真面目な顔になって涙をながしはじめた。

 

 と、そこで目が覚めた。