読書の愉楽

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ミッチェル・スミス「エリー・クラインの収穫」

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 この本は、このミス 93年度の海外編18位だった作品なのですが、なぜもっと上位にくいこまなかったのか不思議なくらいの傑作です。

 ニューヨークで起こる高級娼婦連続殺人。主人公の女刑事エリー・クラインが、様々な障害や警察内部の摩擦に神経をすり減らしながら事件を解決するまでを描いているのですが、これがハンパない書き込みで事件の経過から、警察の内部機構から、エリー・クラインの私生活から、ニューヨークの都市そのものまで詳細にわたって描かれてゆくんです。

 とにかく、この書き込みぶりがスゴイ。本書は文庫本で約650ページ。かなりの分厚さです。でも、その厚さに臆してはイケマセン。

 まずぼくが驚いたのは、エリー・クラインのプライベートの描写です。まさか、すべての女性がそういうことをしてるとは思いませんが、仕事を終えて家に帰ってまずする事があんな事だなんて・・・。

 作者の目は冷徹なまでに研ぎすまされています。それが客観性に拍車をかける。読者は、ページを追うごとに、まるでルポを読んでるみたいに現実世界と小説世界がリンクしていく錯覚に陥ります。

 そこには息をする人間がいて、食事の匂いがして、猥雑な日常があり、さまざまな雑音に満たされたニューヨークという大都市がそびえている。

 たまさか一人の人間の頭脳からこれだけのものが作りだされようとは、小説の力をまざまざと見せつけられた思いでした。

 現在、この本は絶版。もし古本屋にでもあったら迷わず買って読んでみてください。