読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

「マイ・ベストミステリ10」上位5作発表!

 いままで読んできた海外ミステリの中からベスト10を選ぶというはじめての試み。でもよく考えてみるとぼくにはこういうことをする資格はないのかもしれません。なぜなら、ベスト10を選出できるほど多くの作品を読んでるとはいえないからです。例をあげるなら再三言及していることですが、ぼくはいまだにバークリー「毒入りチョコレート事件」を読んでません。ジェサップ「摩天楼の身代金」も読んでないし、フィルポッツ「赤毛のレドメイン家」もライス「スイート・ホーム殺人事件」も、ルルー「黄色い部屋の謎」も、バリンジャー「歯と爪」も、デンカー「復讐法廷」も読んでません。その他諸々いまだに読めてない傑作といわれている作品は数知れず、なのにベスト10を選出しようってんだから、笑止千万ですよね^^。でも、よくよく考えてみるとマイ・ベストなんだからいいのか^^。ぼくの中でのベストですからね。それに既読の超有名ミステリでも今回のベストに選出されなかった作品はあるから、あまり気にしなくていいか^^。

というわけで、昨日に引き続き今日は上位5作の発表です!


◆第5位◆ 「さむけ」ロス・マクドナルド/小笠原 豊樹訳/早川文庫

 ハメット、チャンドラーに続く三番目の男として初期ハードボイルドの礎を築いたロス・マクドナルド。彼の作風は社会や組織に固執することなく家庭の悲劇にスポットを当て、心理学に基づく忌まわしい事件を描くというものでした。そしてこれが先達二人と大きく違うところなのですが、マクドナルドの作品はハードボイルドにあるまじきトリッキーさで読者を絡めとるんです。そういった意味では「ウィチャリー家の女」のほうが驚愕の度合いが大きいのかもしれませんが、こちらは逆にそのトリックが奇想天外すぎて、バカミスの様相を呈しています^^。本書はタイトルからもわかるとおり、背筋を氷でなでられたような恐怖が味わえる逸品。ラストの余韻がいつまでも残ることでしょう。


◆第4位◆ 「火刑法廷」ジョン・ディクスン・カー/小倉 多加志訳/早川文庫

 この作品の凄いところは、読み終わってこれをあのカーが書いた作品なんだと驚くことなんだと思います。何を言ってるんだと思われるでしょうが、ぼくが言いたいのはこういうこと。この作品をあまたあるカーのミステリの第一番目に読んではいけないということなんです。オドロオドロしい怪奇趣味の中にミステリの論理を結実させたカーの作風はミステリファンなら誰もが知っていることでしょう。そんな作風であるカーがこの作品を書いたというところに本書の一番の驚きがあるんです。だから、何冊か彼の作品を読んだ上で本書を味わっていただきたい。そうすればあまりにも大胆なカーの仕掛けたサプライズを最良の形で味わえることでしょう。


◆第3位◆ 「エジプト十字架の謎」エラリー・クイーン/井上勇訳/早川文庫

 クイーンの傑作といえばやはり「Yの悲劇」なのでしょうが、ここは敢えて国名シリーズの中でも屈指の出来だと思う本書を上げておきたいと思います。数ある国名シリーズの中でも、読んでる間中これほどの興奮を与えてくれた作品はなかったと思います。トリックの冴えも抜群で、ミスディレクションの巧みさや真相の糸が解れていく過程のロジックは他の追随を許さないものがあります。事件そのものも猟奇性の高いクビキリ殺人ですし、エキサイティングさでも他の国名シリーズより一歩抜きんでていると思います。


◆第2位◆ 「緑は危険」クリスチアナ・ブランド/中村保男訳/早川文庫

 いたってオーソドックスな事件を扱っていながら本書のロジックは超絶技巧とよべる域にまで達してると思います。いきなり誤解を招きそうなことを書きましたが、ここで使われるトリックは決して大胆なものでも大技なものでもありません。しかし本書の真相がわかる段階で読者は作者の仕掛けたトリックの巧緻さに舌を巻くことになります。登場人物すべてが犯人にもみえてくるミスリードの巧みさや、二回もあるどんでん返しのインパクト。本書を読んでブランドはぼくの中では黄金期のミステリ三巨匠を差しおいて一番の地位を占めてしまいました^^。


◆第1位◆ 「エヴァ・ライカーの記憶」ドナルド・A・スタンウッド/高見浩訳/文春文庫

 やはりぼくの中ではこの作品が一番ですね。これほど興奮して読んだミステリはいままでにありませんでした。作者は二十代のときに本書を執筆したそうなのですが、いやはや凄い才能ではありませんか。もっとも本書の後の作品はみるべきものがないようなので、本書で燃え尽きたのかもしれません^^。とりもなおさず、本書に描かれる事件の収束は、まさにカタルシスの一大ページェントでした。読んでください。どうか、本書を読んでください。いまは絶版ですから、地の果てまでも探しもとめて読んでくださ
い。本書にはそれだけの価値があるのですから。


 というわけで、初の試みであるミステリマイベスト10ここに閉幕となりました。二夜に続きお付き合いしていただいたみなさま、どうもありがとうございました。ぼく一人で楽しんだみたいなものですが、ここに紹介した本がまた新たな読者を得ることができたらこれに勝る歓びはありません^^。