読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

皆川博子

皆川博子「鳥少年」

本短編集には十三の短編が収録されている。タイトルは以下の通り。 「火焔樹の下で」 「卵」 「血浴み」 「指」 「黒蝶」 「密室遊戯」 「坩堝」 「サイレント・ナイト」 「魔女」 「緑金譜」 「滝姫」 「ゆびきり」 「鳥少年」 相も変わらず、捩れてクール…

皆川博子「結ぶ」

『そこは縫わないでと頼んだのに、縫われてしまった』 これは、本短編集の表題作である「結ぶ」の出だしなのだが、なんとも衝撃的な一行である。縫う?そこってどこ?読者の心を鷲掴みにするという意味で、これほどインパクトのある出だしをぼくは他に知らな…

皆川博子「絵双紙妖綺譚  朱鱗の家」

本書は文庫になっている。角川ホラー文庫で「うろこの家」として刊行された。いまでは品切れみたいだが^^。もっとも近々の刊行では「皆川博子作品精華 伝奇―時代小説編」にあのデビュー作の「海と十字架」と一緒に収録されている。だがこの作品は、この単…

皆川博子「あの紫は  わらべ唄幻想」

1994年に実業之日本社から刊行されている短編集である。いまさらながらなのだが、どうしてこれが文庫化されてないのだろう。こんなに素晴らしい短編集なのに。 副題にもあるとおり、本短編集のコンセプトはわらべ唄。いつもいつも感心するのだが、よくこ…

皆川博子「蝶」

凄まじい短編集だ。もうこの一語に尽きる。薄くてすぐに読めてしまう本なのに、世界が変わり確実に自分の中に重くずっしりしたものが沈殿していくのがわかった。 本書に収められている短編は、すべて詩句にインスパイアされている。もともとぼくは詩句には疎…

皆川博子「聖女の島」

なんとも不思議な感触の幻想ミステリだ。本書を読む者は、始終言い知れない『歪み』を感じることになる。まさしく本書は『信用できない語り手』の物語なのだ。なのに一見したところでは、その不安の正体が見定められないようになっている。そしてラスト、凄…

皆川博子「ジャムの真昼」

一人の作家を集中していちどきに読むなんてこと、ここ二十年くらいなかったことである。ほんと、ホームズシリーズを軒並み読んだ時以来のことなのだ。この歳になって、こんなに夢中になれる作家が出現するなんて思いもしなかった。皆川博子とは、それぐらい…

皆川博子「伯林蠟人形館」

本書は非常に高度な小説である。何が高度かといえば、読者の頭を使わせるという意味ですこぶる高度な本なのである。では、それがいったいどういうことなのかということを説明したいと思う。 本書で描かれる舞台は第一次大戦からヒットラー台頭までの混乱をき…

皆川博子「猫舌男爵」

皆川博子の本を読むのはこれが初めてなのだが、いっぺんでファンになってしまった。本書には五編の短篇が収録されているのだが、どれもが素晴らしかった。 巻頭の「水葬楽」はSF仕立ての作品。多くのキーワードが散りばめられ、それが効果的に配されたボー…