1994年に実業之日本社から刊行されている短編集である。いまさらながらなのだが、どうしてこれが文庫化されてないのだろう。こんなに素晴らしい短編集なのに。
副題にもあるとおり、本短編集のコンセプトはわらべ唄。いつもいつも感心するのだが、よくこれだけの詩や唄や絵画を自家薬籠中の物とできるなぁと思うのである。いったいどれだけの引き出しがあるのだろう?と思ってしまう。収録作は以下のとおり。
「薔薇」
「百八燈」
「具足の袂に」
「桜月夜に」
「あの紫は」
「花折りに」
「睡り流し」
「雪花散らんせ」
いつものごとく、みな素晴らしい短編だ。ところどころ微妙にリンクしている作品もあったりして一筋縄ではいかないおもしろさもある。今回この短編集を読みながら、どうして皆川短編はこんなに胸に食い込んでくるのか考えていたのだが、彼女の描く短編世界は非常にクールなのだ。心がほんわかあったかくなるような世界とは対極のところに彼女の目指す世界はある。怜悧な描写、鋭い科白、痛みをともなう展開そして他の追随を許さないあざやかな幻視。一貫した確かな世界観の中で蠢く、この世ならざるもの。此岸と彼岸の間に垣間見える見てはいけないもの。皆川博子の切り取る場面は鮮烈で美しく痛みを伴う。
ゆえに、その世界は読む者に豊かな幻視体験をもたらし激しく胸に食い込むのだ。
手首を切るナイフ、妹を抱く兄、両性具有の姫、夜に開け朝に閉められる仏壇、水面に咲く手首。一段のぼれば父の墓、二段のぼれば母の墓、三段四段は血の涙。浴衣にはりつく乳首。腕を切り落とされた切り口から紅い糸がよじれるように血がしたたる。
ようこそ、極彩色の頽廃へ。あなたもどうですか?ぼくと一緒にここで爛れてみませんか?