本書は文庫になっている。角川ホラー文庫で「うろこの家」として刊行された。いまでは品切れみたいだが^^。もっとも近々の刊行では「皆川博子作品精華 伝奇―時代小説編」にあのデビュー作の「海と十字架」と一緒に収録されている。だがこの作品は、この単行本で読むことをオススメする。なぜならば、副題にもあるとおり本書の造本が和綴じの絵双紙をそっくりそのまま復元したような凝ったものになっているからだ。一応すべての本に目を通したが、文庫も作品精華も岡田嘉夫の絵は載っているのだが、この造りまでは再現していなかった。
とにかく一度この単行本を開いて見て欲しい。絵と文のコラボから字面の妙まで心配りの行きとどいた素晴らしい本なのだ。また、徹底してることに広告まで掲載されているから驚くではないか。株式会社 小堀酒造店、株式会社 浅野太鼓などなど、確かめてはいないがおそらく実在する店なのだろう。う~ん、こんな本見たことないぞ。
さて、凝ったつくりの本の話はこれくらいにして内容なのだが、本書には十二の短編が収められている。
第壱話 沼太夫
第弐話 崖楼の珠(がいろうのたま)
第参話 朱鱗の家
第四話 傀儡谷
第五話 闇彩の女褂(やみいろのドレス)
第六話 朧神輿(おぼろみこし)
第七話 水恋譜
第八話 雙笛(つれぶえ)
第九話 孔雀の獄
第拾話 繊夜(いとのよる)
第拾壱話 寵蝶の歌
第拾弐話 葬蘰(とむらいかづら)
扱われている題材は、花魁物にはじまって中国や現代物インドに琉球物、朝鮮に殺生関白とバラエティにとんでいて飽きさせない。なかにはなかなかトリッキーな作品もあったしね。しかしぼくはこれを一日一話で読んできた。ゆっくりと堪能したわけである。
それぞれがいつもの皆川節の名文で流麗に、そして華麗に綴られていくさまは、思わず声に出して読みたい美しい日本語であり、これは絶対に真似ができないなとため息がもれた。
読み終わってみれば、狂騒がすぎさったかのような痛いくらいの静けさに晒されて、自分がどこかに置き去りにされているような錯覚をおぼえた。言いかえれば、酔っていたのだ。
もうお腹一杯のはずなのに、どんどん読んでいってしまう。この偏執ぶりは自分でもおかしいと思うのだが、これはやめられない。まだまだ読んでいく所存であります。
それとこれは本書とは関係ないのだが、皆川関連でおもしろい記事があったのでご紹介。
皆川さんが京都(!)で講演されたときの話。講演後のサイン会で、「小学校のころから読んでます!」と目をうるませながら感激して告白する女性に対して「まぁ……歪むわよ」と満面の笑みでこたえてらしたというエピソードに胸が熱くなってしまった。なんて素敵なんでしょう^^。