読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2010-05-01から1ヶ月間の記事一覧

中島らも「君はフィクション」

ほんとうに久しぶりの中島らもだ。「こどもの一生」以来だ。本書は短編集であり、12編収録されている。タイトルは以下のとおり。「山紫館の怪」「君はフィクション」「コルトナの幽霊」「DECO-CHIN」「水妖はん」「43号線の亡霊」「結婚しよう…

やさしい気持ちと素直なこころ

渇いた空気と広い空が気持ちのいい色 ぼくはその中を漂う ちくしょう、いい気持ちじゃないか この感動は誰にも伝えられない なぜなら、これはぼくが感じていることだから ぼくが感じている、この真実と同じ感覚は きっと誰にもわからないはず でも、伝えたい…

マックス・ブルックス「WORLD WAR Z」

本書を評するのにうまい言葉が見つからないので、ヤキモキしてしまう。感覚的には、あまりにも精密に作られたミニチュアを見ているようだった。それが、山や川や街があって、街の中には家やビルなんかがあり、その中には部屋もあって、家具も揃ってて人まで…

見知らぬ子を追いかけて

悲しい顔をした子供がいた。歳の頃は三つ四つ、鼻水で汚れた顔をして恨めしげな目でぼくをみている。 ぼくは、どうしたの?と声をかけようとするのだが、どういうわけか声が出ない。必死にしぼりだそうと すると、アー、ウーと意味不明な唸り声になってしま…

国枝史郎「神州纐纈城」

この本の存在を知ったのは小林信彦編の「横溝正史読本」でだったと思うのだが、ちょっと記憶が定かではない。でも、横溝正史が半村良、尾崎秀樹とともに講談社の国枝史郎伝奇文庫全28巻の編集委員に名を連ねていることからしても、おそらく間違いではない…

エマ・テナント「続 高慢と偏見」

高慢の象徴として描かれていたダーシーと結婚した偏見に凝り固まっていたエリザベスのその後が描かれている。豪華の極みのペンバリーの館での結婚生活は幸せ一杯だと思われていたのだが、エリザベスは子どもに恵まれないことで悩んでいた。そしてそれが原因…

クリスチアナ・ブランド「ジェゼベルの死」

ブランド・ミステリの中では、質量ともに少々小粒な印象を受けるかもしれないが、本書も読んでみればおわかりのとおり、その真相の悪魔的な衝撃で忘れられない作品となるだろう。 ぼくは本書を読んでカーの「妖魔の森の家」と同様の戦慄を体験した。まったく…

テルジの幽霊

ナッチとスグルがスカートめくりをして先生に怒られた日、ぼくの親友のテルジが車に轢かれて死んだ。 ぼくはそれを母ちゃんの悲鳴で知った。もう少しで食べてたトンカツを喉に詰まらせるところだった。 母ちゃんは電話を切ると、涙を溜めた目でぼくをみてテ…

門前典之「屍の命題  シノメイダイ」

これね、なかなかの傑作だとおもうのだが、どうなんだろ?久々に読んだ本格物で少し興奮しちゃったのかな?ぼくはとても楽しく読了できた。本書を読んだ誰もが感じることだろうが、ここで扱われるトリックはまったくもってバカミス街道まっしぐらで、もっと…

古本購入記  2010年4月

一言メッセージでも書いているが、最近ずっと「水曜どうでしょう」を観ているのである。これが、もう ひたすらめっぽう面白いのだ。この番組は何年も前に偶然テレビで観たことがあって、そのときはあの最 高傑作「四国八十八ヶ所巡りⅡ」の恐怖の一夜を観たの…

マリー・フィリップス「お行儀の悪い神々」

数多くのモンスターが登場するギリシャ神話は子どもの頃から大好きだった。スペクタクルの宝庫でもあり、謎と冒険に満ちた数々のエピソードに胸を躍らせたものだった。長じてからは、そのあまりにも人間臭い神々たちの振る舞いに魅了された。そう、ギリシャ…

北の所領

窓の近くを通ったとき、ツグミの激しい鳴き声が聞こえたので、思わず立ち止まって外を覗いた。 二羽のツグミがウバメガシの梢のまわりで激しく飛び交っていた。どうやら、巣を狙う外敵から卵を守ろうとしているらしい。 その必死な姿を眺めていると、アラン…