読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2007-07-01から1ヶ月間の記事一覧

マーク・ミルズ「アマガンセット ―弔いの海」

まずこのタイトルに目を惹かれた。アマガンセットとは妙にハートをくすぐる響きだ。でも、いったい何をさす言葉なのかがわからない。おそらく地名なのだろうと見当はつけたが、そんな地名きいたこともない。アイルランドあたりの地名なのかな?と思っていた…

ジョナサン・フランゼン「コレクションズ」

タイトルの「コレクションズ」とは、修正のこと。 現代アメリカの縮図として描かれる一つの家族。内包された小宇宙ともいうべきその縮図の中で、家族はそれぞれ悩みを抱え、鬱屈と倦怠にまみれながらも精一杯生きている。 こう書けば、小難しい印象を受ける…

レナーテ・ドレスタイン「石のハート」

家族全員を一瞬の内に失ってしまったエレン。惨劇は彼女が12歳のときに起こった。いったいエレンの家族に何が起こったのか?惨劇から30年を経てエレンは、あの家をまた訪れる。 とても惹きつけられた。子を持つ親としてちょっと耐えられないショッキング…

マーリオ・リゴーニ ステルン 「雷鳥の森」

イタリア北部の雄大な自然、忘れることの出来ない戦争体験。ステルンの作品集は、アリステア・マクラウドの短編に通じる厳しさと生命の謳歌に満ちて静かな感動を呼びます。地味で荒けずりだけど、だからこそ伝わる真実の姿があります。本書に収められている…

ゲイル アンダーソン=ダーガッツ 「 雷にうたれて死んだ人を生き返らせるには」

第二次大戦下のカナダ西部の農場を舞台にした物語ということで、『大草原の小さな家』みたいな牧歌的な、やさしい物語なのかなと思って読んでみたら、とんでもない。本書は、なかなか異質な家族の物語でした。 主人公であるべスの十五歳から十六歳にかけての…

誼阿古「クレイジーフラミンゴの秋」

先に紹介した「クレイジーカンガルーの夏」のスピンオフ作品ということで、舞台も同じなら、登場人物 もほぼ同じで今回は女の子が主人公である。 しかし個人的な好みからいえば、今回の作品のほうが断然良かった。相変わらずぎこちない部分が目につ き読みづ…

五つの掌編

【シーン1】 「嗅覚を刺激されると起こるんだって」 「というと?」 「たとえば、臭い匂いとか酸っぱい匂いとか、いわゆる刺激の強い匂いだね」 「ふ~ん、そうなんだ」 「だから、さっきはあんなことになったってワケだね」 「うん、よっぽどキツかったん…

平山夢明「ミサイルマン」

話題作となった前回の短編集の勢いを借りて、大いなる期待のもと出版された本書なのだが、いかんせん二番煎じの感がぬぐえない仕上がりとなっている。どうも路線が微妙になってきたというか、相変わらず血と粘液にまみれたナスティなお下劣さは健在なのだが…

マイケル・ホワイト「五つの星が列なる時」

まず驚いたのが本書の著者マイケル・ホワイトがトンプソン・ツインズのメンバーだったということ。 ぼくの知ってるトンプソン・ツインズは三人編成だったが、その中にはいないようなので、三人編成になる前に在籍していたのかな?ま、とにかくなかなか才気活…

笹生陽子「ぼくは悪党になりたい」

これは良かった。いまは文庫になったが、ぼくが読んだのは単行本の時だ。オビには北上次郎の推薦の言 葉が書かれているし、これは買いでしょうってんで読んでみたのだ。 主人公のエイジは腹違いの弟がいる普通の高校生。しっかりしているんだけど、やっぱり…

デイヴィッド・マレル「真夜中に捨てられる靴」

マレルの短編にハズレなしと勝手に思い込んでいるぼくにとって、うってつけの本が刊行された。 本書のタイトルを見たときに「?」と思った。「真夜中に捨てられる靴」とは、過去にこのブログでも再三言及してきたあの「リオ・グランデ・ゴシック」と非常に似…

甘党アニキとオレ

口に頬張った洋菓子は、あふれ出る唾液と共に咀嚼されグチャグチャといやらしい音をたてた。 ゆっくりと首を回しゴキゴキと音をたて、口のまわりにクリームをつけた男はこう言った。 「せやから言うたやろ?お前やっぱりあかんやろうって。おれの言うことに…

本谷 有希子「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」

この人最近注目されてるの?不勉強でまったく知りませんでした。タイトルがおもしろかったので、なん となく手にとってしまったが、これ結構いいんじゃないの? 本書で描かれるのは、確執だ。家族という小さなコミュニティで起こる愛憎劇だ。人間の本質とし…

ジュリー・オリンジャー「溺れる人魚たち」

海外、特にアメリカの女流作家の短編集が結構好きだったりする。『アメリカの悲劇』を独特の筆勢であぶりだす「銀の水」のエイミー・ブルームや、奇妙で非現実な設定を用いながらも、そこに厳しい現実に晒され孤独に陥る少女たちを見事に活写した「燃えるス…

永瀬隼介「永遠の咎」

この人の本を読むのは、本書が初めてである。文庫本で525Pって結構な厚みだ。それに、このくらいの厚みが一番購買意欲をソソる。作者の語りたいことがこんなにあるということは、それだけ思い入れがある上に作者自身も興が乗ったに違いないと思ってしま…