久しぶりの山風だ。もう忍法帖の長編は読み尽くしちゃったからね。こういう幻本の復刊はファンにとっちゃ涙ちょちょぎれ もんの喜びなのだ。だから、もったいなくて15年以上も寝かしてあったのだ。
このタイトルからはまったく内容が見えてこないが、これは「御用だ!御用だ!」の御用と侠客を組み合わせた造語だ。主人 公は『屁のカッパ』という綽名を持つ一本気で正義感のかたまりのような男。喧嘩っぱやくて、すぐ頭に血がのぼってしまう単 細胞でもある。そんな彼が上州の田舎で一悶着起こし江戸へやってくる。彼には幡随院長兵衛のような立派な侠客になりたいと いう夢があったが、飄々としたどこか惚けた同心、恥かし瓢兵衛から十手をあずかり、岡っ引きとなって江戸の悪を一掃するこ とになる。しかし、それはただ単に悪を取り締まるという単純なものではなく、悪が是、善が否なんて矛盾がはびこるなんとも 面妖な様相を呈してくる。
実在の人物が絡んでくるサプライズも用意されていて、それが結構ストーリー展開に重要な役どころだったりする。ここで、 誰が出てくるのか書くつもりはないが、時代物ではお馴染みの面々だ。風太郎自身この作品の評価をかなり低くみていたようだが、ま、それも頷けないではない。たしかに本書は数ある風太郎の傑作群の中では小品であり、中の下の出来だ。しかし、それ でも十分おもしろくスイスイ読めていつものアイロニカルな展開をみせるのは、やはり風太郎ならではのもの。長いあいだ本書 は風太郎自身が首を縦にふらなかったため陽の目をみることはなかったのだが、その判断も然りと思える内容だ。だって、ああ た目の覚めるような美女が真昼間の神社の境内で着物の裾まくりあげて、〇〇〇しちゃうんだもの。ホント驚いたなあ、もう。ま、内容的にかなりヤっちゃってます。どうしたんだろうね風太郎さん。こんなにやりたい放題ってのもめずらしいな。
でも、先ほども書いたようにアイロニカルな展開は、まさしくいつもの風太郎節。物事はすんなりいくわけなくて、なんとも 皮肉な結果をむかえてしまう。そうそう、本書では結構バタバタと人が死んでゆきます。え、ここで殺しちゃうの?って何度思 ったことか。
ま、でもファンとしては、これが読めて慶賀のいたり。ほんと生きててよかったなあ。