読書の愉楽

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山田風太郎著 日下三蔵編「神変不知火城 山田風太郎少年小説コレクション②」

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 本書は論創社から刊行されている山田風太郎少年小説コレクションの第二弾なのである。風太郎のジュブナイルは結構書かれていたみたいで、いままで廣済堂文庫(「天国荘奇譚」「青春探偵団」)や光文社文庫(「笑う肉仮面」「天国荘奇譚」「怪談部屋」)で刊行されていたのだが、現代の風太郎研究者の第一人者ともいうべき日下三蔵氏の尽力によりあらたに発掘されたジュブナイルが二巻に分けて刊行されたというわけ。

 

 ぼくなどはあまり風太ジュブナイルは読んでないので、ここに収録されている作品がどれだけ稀少なものなのかは実感としてないのだが、おそらくこれはすごい掘り出し物なのだろう。なんせ、雑誌収録当時の挿絵まで掲載されているのだから、その凝りようはたいしたものである。本書に収録されているのは以下のとおり。

 

 「七分間の天国」

 

 「誰が犯人か  窓の紅文字の巻」

 

 「誰が犯人か  殺人病院」



 「毒虫御用心」

 

 「地雷火童子

 

 「神変不知火城」

 

 
 最初の三編は現代ミステリで、「七分間の天国」は青春探偵団シリーズの一編。これは幻の作品だったらしい。よく見つかったものだ。風太郎らしいのは、こういう内容のものをジュブナイルとして発表するところだろう。いまならこれは通用しないだろう。

 

 続く二編は懸賞小説で、出題と解答のあるとても短い作品。どうやらこれは風太郎原案で誰か他の人の手になるものかもしれないらしい。なるほどいわれてみれば、文章は少しわかりづらいような気がした。

 

 次の三編は時代物で「毒虫御用心」も懸賞小説。これは風太郎が書いたもの。トリックは他愛ないものだったが、わからなかった。

 

 「地雷火童子」と「神変不知火城」は長編。本書の半分以上を占める作品。「地雷~」は「いだ天百里」(廣済堂文庫)の中の「地雷火百里の巻」のエピソードを少し設定を変えてジュブナイルとして書き直された作品。徳川の刺客の目を盗んで、いかにして大量の爆薬を紀州から江戸に運ぶのか?という難題に軍師 真田幸村が挑戦する痛快作。少年少女が主人公であり当時の子たちは楽しんで読んだのだろうね。

 

 「神変不知火城」は本書の目玉。ぼくはこれを一番読みたかったのだ。なぜなら、ここで描かれるのは島原の乱前夜の話で、あの大傑作「魔界転生」に登場した天草四郎、森宗意軒、由比正雪が出てくるというのだから興奮してしまうではないか。まさに波乱万丈の話で「魔界転生」では敵役だった天草四郎と森宗意軒が善人として描かれるのがおもしろい。しかもこれ前編のみの収録だから話が途中で終わってしまっているのである。ああ、最後まで読みたかった。

 

 というわけで、本書は風太郎のファンのみが読んで楽しめる内容となっている。風太郎作品をいくつも読んで彼に心酔している者のみが読むべき本だ。そういう人こそ本書を心から楽しめるのだ。