読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ハーラン・エリスン「ヒトラーの描いた薔薇」

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 十三編収録。収録作は以下のとおり。

 
 ・「ロボット外科医」
 ・「恐怖の夜」
 ・「苦痛神」
 ・「死人の眼から消えた銀貨」
 ・「バジリスク
 ・「血を流す石像」
 ・「冷たい友達」
 ・「クロウトウン」
 ・「解消日」
 ・「ヒトラーの描いた薔薇」
 ・「大理石の上に」
 ・「ヴァージル・オッダムとともに東極に立つ」
 ・「睡眠時の夢の効用」

 一言にSFといっても、その中には様々なヴァージョンが内包されているわけで、ハードなものからワン・アイディアの軽めのもの、どちらかといえばファンタジーに寄りそったものから日常の不思議系のものまで描かれる世界は無限に近いものがある。そんな中で、エリスンの書くSFはといえば、ストレートなものは少なくファンタジー寄りのものが多いように思う。本書の中では「ロボット外科医」と「ヴァージル・オッダムとともに東極に立つ」のニ作がどストレートなSF設定の物語で、その他の作品はどちらかといえばファンタジー寄りだ。「恐怖の夜」と「死人の眼から消えた銀貨」などは黒人差別を扱ったいたって普通の小説だしね。そんな中でもこれぞエリスンともいうべき一連の世界観があって、「世界の中心で愛を叫んだけもの」や「死の鳥」と同じ神話的世界を描いた作品群が本書にも収められていて「苦痛神」、「バジリスク」がそうなのだが、ぼく的には「バジリスク」が一等抜きん出てて素晴らしい。あと表題作はヒトラーの名がタイトルにあるにも関わらず彼の出演はほとんどカメオだ。ここで描かれるのはあまりにも凄惨なある事件の顛末とその理不尽な結末。よくぞこんな世界を見せてくれたものだ。エリスンの短編はまだまだあるそうで、今後もどんどん紹介していって欲しいと思う。エリスンの短編は、刺激的だ。その根底には思想が流れ、暴力を描きながらも必ず真っ当な一本の線が通っている。無茶をしているようでいて、実は周到に計算されているのだ。今回の短編集も必ず好評をもって迎えられているはずだから、第4弾、第5弾も必ず刊行されることだろう。