読書の愉楽

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法月綸太郎「挑戦者たち」

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 さて、ミステリ好きのみなさん、『読者への挑戦』好きですか?そう、クイーンの国名シリーズで有名な解決編の前に登場するあの一段落である。

 謎を解く手掛かりはすべて提示された。読者は、この段階で事件に関して作中の探偵とまったく同じ知識を得ており、よって適切で論理的な推論を積み重ねれば、必ず真犯人にたどりつけるだろう。

 ざっと書きだせば、こんな感じかな?要するに作者はこのミステリを完全なフェア・プレイで構築しているから、この段階で読者自身で犯人及びその動機、トリックを論理的に導きだしてみろと言っているわけなのだ。

 ぼくは、国名シリーズもほとんど読んだし「中途の家」も読んだし、島田荘司占星術殺人事件」も読んだ。有栖川有栖の江神シリーズも読んでるし高木彬光の「人形はなぜ殺される」も読んでいる。よくは思いだせないけど他にも「読者への挑戦」があるミステリは読んでいると思う。何が言いたいのかといえば、要するに『読者への挑戦』には慣れ親しんでいるということなのだ。しかし、自慢ではないが、ぼくはいままでに一冊でも解決編の前に自分の論理的思考で真相にたどりついたことはない。犯人くらいは当てたことがあるが、それも論理的思考でたどりついたわけじゃない。

 「読者への挑戦状」のスタンスは、いってみれば装飾だ。そりゃあ中には、その段階で一度本を閉じ、自分なりの推理を展開するっていう人もいるだろう。そうそう一度、古本屋でクイーンの「ローマ帽子の謎」をパラパラ見ていたら「読者への挑戦」のところで詳細な書き込みがしてあって(創元推理文庫版では、読者が推理を書き込むスペースがあるのだ)それが的中していたので驚いたことがあった。ま、そういう驚くべき推理力を発揮する人もいるだろうが、大抵の人はそのまますぐに解決編に突入するのではないだろうか?だって、はやく真相が知りたいもの。それに、その真相にたどりつくのに、かなりアクロバティックな推理をしなければいけない場合が多々あって裏を返せば、フェア・プレイかもしれないがかなり強引な解決になっていることが多いのだ。

 だから、ぼくなどは「読者への挑戦」はミステリのカタルシスを期待するバロメーターみたいに思っていて、これがあることによってこのミステリの作者は、ロジックに重きをおいて正々堂々と推理を展開しているのだなと肝に銘じて次へ進むことにしているのだ。

 おっと本書のことを語る前に千文字ほど書いてしまった。なんてことだ。

 というわけで、本書はその「読者への挑戦」を完全にパロったいままでにない挑戦を試みている本なのである。法月氏レーモン・クノーの「文体練習」に触発されて、読者への挑戦を99通りも書きだしている。これが、ああた、なんとも楽しいのでありますよ。さまざまな文体、多様な様式、過去の有名作を下取りして、模写したりパロったり茶化したり。かと思えばネットのソースを持ち出してきたり、果てはいきなりQRコードが出てきたりとまことに節操のない遊びようなのである。しかし、それだけにとどまらず、ところどころに独自のキャラクターが顔を出し、なんだかいろいろ事が起こり、読みすすめるにしたがってミステリとしても機能するという仕掛けがあったりしてなかなか楽しめるのである。ぼくは真相わからなかったけどね。

 さらにもう一つ、この初版本には素敵な『プレミアム挑戦状』がついていて、正解者全員に直筆ミニサイン色紙をプレゼントなのだそうだ。その挑戦の内容がどんなものかはここでは伏せておこう。興味のある方は実物にあたっていただきたい。ぼくは一応わかったのだが、こんなに簡単でいいの?まさか、そんなことないよね?と疑心暗鬼中なのである。もう一度書くが、この『プレミアム挑戦状』は初版本のみの特典なので、挑戦しようと思われる方は急いで本書を購入していただきたい。あ、そうそう、この本って箱入りなのだ。ぼくは、この箱入りってやつに弱くて、ついつい買ってしまうんだよね。本好きのみなさんも、そんなことないですか?