読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ジム・ケリー「水時計」

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 新人によるイギリス発の正統派本格ミステリなのである。おおまかなアウトラインは以下のとおり。

 

 イギリス東部の町イーリーで、氷結した川から引き上げられた車のトランクから死体が発見される。これが謎に満ちた死体で、頭部を銃で撃ちぬかれた上に首が折られてちぎれそうになっているのである。見るも無惨な死体なのだが、いったい誰がこれほど入念な殺し方をしたというのか?そして、その翌日に今度は大聖堂の丁度死角になっている屋根の上の樋の中で白骨死体が見つかる。

 

 事件を追うのは、新聞記者のドライデン。二つの事件に関連を見出した彼は、独自に調査をすすめていくのだが、そこには何者かの妨害が入り・・・・。

 

 といったいかにも定番な作りの非常にオーソドックスなミステリ。ミステリ自体は、なかなか堅牢な論理展開で納得のできるものである。だが、とりたてて素晴らしいサプライズがあるわけでもなく、驚くようなどんでん返しがあるわけでもない。本当にストレートな犯人と動機の謎で読ませるミステリである。

 

 特筆すべきは、やはり主人公の背景だろう。敏腕の記者ながら、彼の過去には心の傷となる事故があり、彼の妻はいまも病院で植物人間の状態で横たわっているのである。本作ではこの過去の事故に関する秘密も明かされることになるのだが、今後このシリーズで妻であるローラがどういう風にかかわってくるのかが要点の一つとなるだろうと思われる。

 

 あと言及しておきたいのが、ドライデンを影でささえるタクシー運転手ハンフリーの存在だ。彼はドライデンのお抱え運転手として常に行動を共にする。待機中は瞬時に眠りにつくという特技があり、いつもどこかの国の言葉を勉強している変わり者だ。彼とドライデンのコンビは、時にユーモラスで時に信頼厚く行動し、読者を飽きさせない。名コンビなのである。

 

 というわけで、とりたててオススメというわけでもないのだが、非常に読みやすいミステリであることは間違いない。年末のミステリベストに顔を出すような作品ではないが、落ち着いてゆっくりミステリを楽しみたいときにはこれ以上ぴったりの作品もないのではないかと思われる。