ハードボイルドとしての体裁はなかなかのものである。警句に満ちたシニカルな言い回し、失踪人探しを
軸にして展開する起伏に富んだ物語。主人公の女子高教師である高梨龍平は、過去に忘れることので
きない体験をしている。自分の教え子が自殺してしまったのである。その体験は彼に呪縛を与える。自分
の生徒が死んでしまうという出来事に、彼は真からの恐怖を味わうのだ。
そんな心の傷をもった彼の生徒が失踪した。同時にかつての教え子で今はやくざの幹部になっている本間
伸尚が何者かによって殺される。二つの出来事に接点があることに気づいた高梨は、また生徒を死なせて
しまうかも知れないという恐怖にさらされ、それに突き動かされるように生徒の行方を追うのだが、絡ま
りあった真相は事態を意外な方向に導いてゆく。
はっきりいって錯綜した人間関係はご都合主義的な配置にも感じられ、ちょっと出来すぎなんじゃないか
と思ってしまうのだが、物語の展開がおもしろいので、あれよあれよという間に読み終わってしまう。
ラストになって、このタイトルの真の意味がわかるという構成も好感が持てる。表面だけの意味合いでと
らえていると、誰もがラストで納得するはずだ。
もう一度繰り返すが、因果関係はほとんど団子状態だ。この広い世の中で、こんなにうまい具合に人間関
係が絡み合っているのは、ちょっとナンセンスだ。でもぼくはこの本、気に入った。
ぐいぐい読ませる疾走感が心地いい。主人公のプロフィールにも頭を傾げたくなるが、最近は『ヤンキー
先生』なんてのもいるから、あながちこういう先生もいるかもしれない。
とにかく、本書はおもしろかった。これからもこの人の本は色々読んでいきたいと思う。
久しぶりにいいハードボイルド読んだって感じだな。