読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2009-06-01から1ヶ月間の記事一覧

清水マリコ「嘘つきは妹にしておく」

ラノベを読むようになってから、年甲斐もなくカラフルな背表紙の並ぶ棚の前でおっさんがウロウロするようになったのだが、たくさん並んでいる本の中にこれだ!と思うものを見つけるのはそうそうあることではない。そんな中、この文庫からは読む本はないだろ…

ジャネット・ウィンターソン「灯台守の話」

ウィンターソン作品はこれで三冊目である。衝撃の出会いとなった「さくらんぼの性は」も彼女のデビュー作である「オレンジだけが果物じゃない」も、頭から煙が出てしまうくらい興奮して読んだ。それくらい彼女の作品には首ったけなのだ。 彼女の作品の魅力を…

教室と地獄

「耳カキでこそげ落とすような感じで発音してください」 そんなこと言われても、それがどういう感じなのかがわからない。っていうか、わかる人いる? すると、隣に座っていた若い女の子が大きな声で文例を読み上げた。 それは、まさしく『耳カキでこそげ落と…

皆川博子「トマト・ゲーム」

『トマト・ゲーム』 『アイデースの館』 『遠い炎』 『アルカディアの夏』 『花冠と氷の剣』 『漕げよ、マイケル』 本書に収録されているのは以上の五編。それまでジュヴナイル作品は発表していたが、皆川博子が一般向 けにデビューした記念すべき短編集であ…

劇団ひとり「陰日向に咲く」

タレントの本が続きます。もう三年も前に刊行されて評価も定まった本書を今更読むに至ったのは、べるさんの影響である。読了して思った。確かに本書は素晴らしい。連作形式の小説はいままで数多く読んできたし、一応その仕掛けに対する免疫もあると思ってい…

前田健「それでも花は咲いていく」

この人もタレントさんなのだが、この本のことをとある雑誌で貴志 祐介が褒めていたので、興味をもったのである。本書にはそれぞれ花の名を冠した短編が9編収録されているのだが、ここで描かれるのはいわゆる異常性愛の人々なのである。それはロリコンであっ…

岸田今日子「二つの月の記憶」

女優岸田今日子しか知らないぼくにとって、本書は衝撃的だった。ちょっと踏み込んで、あの懐かしのムーミンとして親しんだ岸田今日子さんが、こんな素敵な本を書かれていたとは知らなかった。 本書は、岸田今日子さんが亡くなられる前に雑誌「メフィスト」で…

山白朝子短篇集「死者のための音楽」

話題の作品集である。本書の著者がかの作家の変名だというのは、おそらくそうなのだろうと思われる。だって、各作品の作風がまったくそのままなんだもの。というわけで各作品のタイトルをば。 ・「長い旅のはじまり」 ・「井戸を下りる」 ・「黄金工場」 ・…

遠藤徹「むかでろりん」

寺田克也の扇情的な表紙と、意味不明なタイトル。これだけ揃えば、もう読むのに躊躇はしない。本書の著者が「姉飼」で日本ホラー小説大賞を受賞してデビューしたことは知っていた。しかし、「姉飼」にはあまりソソられなかった。なんか話が見え透いているよ…

ルイス・シャイナー「グリンプス」

SFの体裁をまとっているが、本書の眼目はそこにはない。それは、話を進めるだけの一つの手法であって本書で描かれる真のテーマは親と子の確執である。そう書けば、なんと辛気臭い話なんだと思われる向きもあるかもしれないが、ちょっとまっていただきたい…

皆川博子「化蝶記」

皆川時代小説集である。全八編それぞれバラエティに富んだ趣向が凝らしてある。まずはタイトルをば。 ■ 「化蝶記」 ■ 「月琴抄」 ■ 「橋姫」 ■ 「水の女」 ■ 「日本橋夕景」 ■ 「幻の馬」 ■ 「がいはち」 ■ 「生き過ぎたりや」 うれしいことに、この中で「化…

ジェイ・アッシャー「13の理由」

それほど凄い事が書かれているわけでもないのに、本書から受けるインパクトは絶大だ。ショッキングな場面があるわけでなし、歪んだ心情が描かれるでもない。ここに登場するのは等身大のわたしたちである。わたしたちと同じ普通の人々が登場し、そんなにドラ…