読書の愉楽

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平山夢明「ヤギより上、サルより下」

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 前回「デブを捨てに」の感想で、ぼくは平山さん角がとれて最低最悪の部分がうすまっちまってるよと書いた。確かに、あの神がかり的な短編集「独白するユニバーサル横メルカトル」でいきなり浮上してからの幾つかの短編集は最低最悪が当たり前の独立独歩作品ばかりで、良識を振りかざして生きておられる正統派のみなさんには多大な嫌悪感をもたらしたと思うのだが、ぼくはこういうのが大好きなので手放しで喜んだから、ここんとこの平山作品のヌルさにもどかしい思いをしていたのである。

 で、本書なのであります。もうこのタイトルからして『なんのこっちゃ!』って感じなのだが、これがまことに秀逸な短編で、あいかわらずの無国籍感覚はそのままに、得意とする最低最悪部分は抑えているにもかかわらず(といっても、みなさん、これはあくまでも平山基準であって、充分エグい話なのですよ)適度に配されたユーモアと物語自体の吸引力でもって、グイグイ読ませる好編に仕上がっているのだ。

 物語の舞台となるのは、『ホーカーズ・ネスト』という淫売宿。ここに売られてきた少しオツムの温いおかずという名の少女が語り手だ。ね?もうこの触りだけで普通じゃないでしょ?そこで働いている姐さんは三人。それぞれ〈お客さんが目ン玉をヒン剥くような得意技〉をもっていて、かつてピンサロナンバーワンだった〈つめしぼ〉さんは〈睾丸チューニング〉、訛りまくっている〈せんべい汁〉さんは〈天城越え〉、東大出の〈あふりか〉さんは〈マラカイボの灯台〉←でもこれはお客さんが廃人になってしまうので禁じ手にされていて、いまは〈海綿ムニエル〉が主となっている。それぞれがどんな技なのかは実際読んで確かめて欲しい。すべてぼくは絶対試したくはないけどね。

 そんなトンデモなネストにある日新入りとしてヤギの甘汁とオランウータンのポポロがやってくる。経営が行き詰ってきたネストを立て直すために、経営者であるオバチャンが仕入れた秘密兵器だ。しかしあらすじの紹介はここまでにしておこう。まあとにかく平山さん笑わせてくれます。真っ当じゃないのに痛快で、最悪なのに幸せなこの無国籍ウェスタン風の物語、ぼくは大好きです。

 他の作品もタイトルだけみると、なんのこっちゃな作品ばかりで「パンちゃんとサンダル」、「婆と輪舞曲」、「陽気な蠅は二度、蛆を踏む」と三編収録されているが、それぞれまさに最悪な話にも関わらず、モーレツにお下劣だけど、地に堕ちたところがないのが平山作品の良いところなのだ。

 さて、嫌いな人はまったく受けつけないだろうこの本、あなたは読みますか?読みませんか?