本書は前回の「或るろくでなしの死」で感じたわずかな不満をきれいに払拭する短編集だった。本書には10編の作品が収録されている。タイトルは以下のとおり。
「日本人じゃねえなら」
「サブとタミエ」
「兄弟船」
「悪口漫才」
「ドブロク焼場」
「反吐が出るよなお前だけれど・・・・・・」
「人形の家」
「チョ松と散歩」
「おばけの子」
「暗くて静かでロックな娘」
「暗くて静かでロックな娘」
最底辺で蠢く人々、場末の饐えた匂い、無国籍めいたフランクなネーミング、情や倫理とはかけはなれた世界で描かれる最低最悪な物語たち。
それぞれ数十ページの短さなので、スルスルと読めてしまう。しかし、その濃い内容にどんどん身体の中に黒い澱が溜まってゆくようだ。
各短編のあらすじは敢えて書かない。個人的な好みでいえば本短編集で最悪の読後感だったのは「おばけの子」。話の展開に感心したのは「悪口漫才」と「チョ松と散歩」。どす黒い中にもかすかな光が見えた「人形の家」などが印象に残った。巻頭の「日本人じゃねえなら」も後味の悪さでは他に引けをとらない。ぼくはこれを読んでジョー・R・ランズデールの黒い短編を思い浮かべてしまった。
斯様に本書はあまり耐性のない人が読めば、かなり強烈な後遺症が残る作品群で占められている。平山氏の筆は容赦なく鉈で切りつけてくるような狂的な凶暴さで読む者の心を押しつぶす。独特の言語感覚、目を見開く描写、無駄のないユーモアの陰にひそむ病的なまでの非情さ。
どうか本書を読んで、ヒリつく酷さを味わって欲しい。これは後をひく。こんなに酷いのにだ。