読書の愉楽

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平山夢明「デブを捨てに」

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 『最底辺で蠢く人々、場末の饐えた匂い、無国籍めいたフランクなネーミング、情や倫理とはかけはなれた世界で描かれる最低最悪な物語たち。』

 

 これは前回の短編集「暗くて静かでロックな娘」を読んだときに書いた平山作品への感想である。
 
 また、「ダイナー」の感想では平山氏のことを『グロテスクとスタイリッシュを絶妙のブレンドで描くことのできる作家』だと書いている。
 
 かように、この人の書く物語は唯一無二の存在だと思うのである。本書に収録されている四編も、まあ普通じゃない話ばかりだ。
 「いんちき小僧」三日間何も食べてないおれはコンビニでキャラメルを万引きして、店の女につかまり公園で殴られたあとへ変った男から声をかけられた。でもその男の話がまたとんでもない話で・・・・。
 「マミーボコボコ」三十五年前に捨てた娘から逢いたいという手紙をもらった《おっさん》に頼まれて同行した俺。向かった場所にはテレビクルーが待っていて七男五女の子を持つ大家族の密着テレビ番組を収録しているという。《おっさん》の娘がその家族のお母さんらしいのだが・・・・。
 「顔が不自由で素敵な売女」ヘルスで頭頂が禿げているハラミという女からサービスを受けている俺。サービスには満足できなかったが、なんとなく気が合い働いている『でべそ』という飲み屋のショップカードを渡してやり女は常連になるのだが、そこのオーナーのマンキュウには暗い過去があって・・・・。
 「デブを捨てに」は借金の返済期限を守れなかった俺は、監禁され腕を折るかデブを捨てに行くかどちらかを選べと迫られる。俺はわけがわからずデブの方を選ぶのだが・・・・。
 
 という具合に、ま、普通じゃない話ばかりが並んでいるわけなのだが、いつもの平山短編にくらべると以上の四編はとてもウェッティだ。いやいやそう書けば語弊があるだろうが、以上の四編はどれもラストにおいて救いがある点でいつもの平山作品にある毒がかなり軽減されているのだ。
 無国籍、最低辺、場末というとても魅力的な要素はそのままに、ただ最低最悪だけが抜けている。それが本書の特徴。ぼくとしてはいつも通りのまるで救いのない話が読みたかった。こういう雰囲気は平山夢明きには似合わないと思うのだがどうだろうか?