読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

デーナ・ブルッキンズ「ウルフ谷の兄弟」

イメージ 1

図書館に行ったときに、たまたま新刊コーナーにおいてあったので借りて読んでみた。新刊といっても、本書は1984年に一度刊行されているようで今回評論社から『海外ミステリーBOX』という新レーベルの一冊として復刊されたという経緯らしい。

本書は1979年のエドガー賞ジュブナイル部門を受賞した作品だそうで、まあミステリーとしてはさほどでもないのだが、読み物としてはなかなかおもしろかった。

主人公は母を亡くして伯父の家に引きとられることになったバートとアーニーの兄弟。十二歳と九歳というまだまだ甘えたい盛りの子どもたちなのに、肉親の愛情を受けられない環境にあるという設定がまず心痛い。だが、そんな不幸をものともせずこの幼い兄弟たちは新しい環境に飛び込み、健気に力強く生きていく。そこにウェッティな要素はなく、むしろ力強くユーモアに溢れているところがうれしい。身を寄せることになったチャーリー伯父さんは飲んだくれのアルコール依存症。無責任でまるでアテにならない。

家の中は荒れ放題だし、まともな食事も出てこない。それでもバートとアーニーは伯父さんの家においてもらうために一生懸命家の中をきれいにし、自分たちでおいしい食事を作る努力をする。町の人たちにも受け入れられ、地に馴染んできたころに殺人事件が起きる。あろうことか、事件にショックを受けた伯父は兄弟たちに元いた家に帰れと金を残し家を飛び出してしまう。残された二人は、周囲の人々に家の事情を隠しながら自分たちだけで生活を続けようと努力するのだが、次々と問題が起きてしまい・・・・。

死に際に母が残した「アーニーのめんどうをみてあげて」という言葉を胸に孤軍奮闘するバートの姿がいじましい。小さな子どもの胸に抱えておくには大きすぎる悩みが山積みになっていくにつれ、彼の心の痛みがぐいぐいと読み手にも迫ってくる。だが、その緊張感をうまくなだめるのが弟アーニーの天真爛漫な姿だ。ハロウィーンやクリスマスを心から楽しもうと自分なりに工夫し、憂鬱になりがちな兄を陰ながらサポートするアーニーの姿にはホロッときながらも微笑まされる。

不幸な生い立ちに間違いはないのだが、その逆境に立ち向い自分たちでなんとかしょうとする兄弟の姿が前向きに描かれていてよかった。勇気の意味を体験から得られたこの兄弟にもう怖いものは何もない。そう願って気持ちよく本をおくことができた。たまには、こういう本を読むのもいいね。