読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

舞城王太郎「畏れ入谷の彼女の柘榴」

畏れ入谷の彼女の柘榴

 まっとうだ。至極まっとうだ。突飛で(身に覚えのない子を授かる妻、言葉を話す猿、人の形をしてやってくる心残り)あまりにもブッ飛んだ設定の中で描かれるのは至極真っ当で、普段何気なくあまり気にもとめずに、思考の惰性で処理している事柄や、物事の本質をとことん突きつめた解釈だ。それぞれの奇妙なシチュエーションの中で展開するロジックに舌鼓。

 舞城くん、冴えわたってるわー。好き好き大好き超愛してる

 いやいや、なんのこと?って思ってしまうよね。何をそんなに舞い上がってんの?って。

 でもね、やっぱり舞城くんの小説読むとテンション上がっちゃうんだよねー。なんか、普段見過ごしている、ていうか極力考えないようにしている世の中の理(ことわり)や、人との付き合いの中で重きをおくポイントや、サンデル教授が取り上げそうな正義の話的な共通善意識なんかが、ポンポン頭に浮かんでくる。それは、刺激であって、起爆剤であって、活力そのものだ。

 ここには偏見も差別もない。人として真っ当に生きる道が示されている。福井弁のどこか暢気で遠いけど馴染み深い言葉のリズムにのって、ぼくたちは、思考の海に漕ぎだす。

 舞城くんの本を読んだことのない人に是非ともこのグルーヴと優しさを感じて欲しい。ぼくたちは、多かれ少なかれこういうことを頭の中で処理しているはず。だって、それが人間だもの!