読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

リリー・フランキー「東京タワー オカンとボクと、時々オトン」

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離婚してるわけでもないのに、別居しているがゆえオカンと二人の母子家庭を歩んできたリリー・フラン

キーさんの自伝的小説、おそまきながら読ませていただきました。

読んでいてまず驚いたのが、リリーさんのなんのてらいもないあまりにも赤裸々な告白でした。こんなに

あけっぴろげで、素直な感情の吐露は読んでいて気持ちがいい。

彼はぼくたちと同じ普通の人。自分に甘く、後悔ばかりをくり返す。けっして、かっこいいわけでも誇り

高いわけでもない。そこにいるのは、ぼくと同じ普通の人でした。

でも彼ほど素直で、やさしい人はいないんじゃないでしょうか。

やさしさは、充分な愛情を受けてこそ育まれるもの。オカンとリリーさんの二人だけの生活が、彼という

一個の人間を形成したのなら、そこには計り知れない母親の愛情というものが存在していたんです。

そのことは、この本のどのページからでも読み取ることができます。

いつも笑ってるオカン。けっして裕福でない生活の中で、わが子にだけは悲しいおもいをさせてはいけな

いとがんばっていたオカン。自分のことは二の次にして、常に息子を第一に考えていたオカン。

母親が、わが子に与える愛情は無条件であり、絶対なんです。

でも、そのことは理解していてもどこかで当たり前だと思っている自分がいる。だって、ぼくはあなたの

息子なんだよ。あなたのお腹から生まれてきたんだよ。愛情を与えてくれるのが当たり前なんじゃないの

ってね。

母親は、見返りをもとめて愛情を注ぐわけではありません。そんな打算的な愛情を注ぐ母親なんていない

でしょう。それをわかっているから、子は甘えてしまう。

やがて、大人になり自分で生活の基盤をつくり自ら親になってはじめて親の大変さというものが、身にし

みて理解できるようになる。

しかし、無償の愛に報いる恩返しなんて出来るもんじゃない。また親はそんなものを求めてもいない。

やさしい言葉、気遣い、思いやり、それが一番なんじゃないでしょうか?

だから、リリーさんのオカンはきっと幸せだったんだと思います。最終的には息子と一緒に暮らして、そ

の仲間たちと共に楽しい日々を送ったんですから。

わが子が幸せなら、親も幸せ。子としては、あれもしてやれなかった、これもしてやれなかったと悔やむ

気持ちだけが大きくなっていくのですが、親としては、あなたが幸せなら私はいいんだよって気持ちなん

だと思います。


死の別離というのは、残された者にとってはどうにかして避けたい人生最悪の出来事です。

およそ、それは体験しえる出来事のうちで、一番劇的な瞬間でしょう。感情の奔出といってもいい。

乗り越えるべき試練ではあるんですが、できればずっと乗り越えたくはない。

でも、それは必ずやってくる。

不安と恐怖。信じたくない気持ちと、どこかで確信している気持ち。

ふたつの感情に、わが身は引き裂かれそうになってしまう。

本書でのクライマックスともいうべき母親との別離の場面は、感情を揺さぶるはずの筆勢がことさら強調

されるわけでもなく、事実そのままであろう記述に徹してあるがため、逆に迫真さが増し胸のつぶれる思

いをしました。

これだけ息子に愛されたオカンは、ほんとうに幸せだったんだと思います。

久しぶりに、心を平静に保てない本を読みました。オススメです。