「本が好き!」の献本である。
最近の角田さんは、本書のようなちょっとクライムノベルっぽい作品を書いているので、気になっていたのである。「八日目の蝉」を読みたいなと思いながら、ついつい先延ばしにしているうちに本書が献本で出てたので応募してみたというわけ。
だが、本書で描かれるのはミステリでもクライムノベルでもない。幼子をもつ母親たちの物語なのである。登場するのは5人の母親たち。彼女たちはそれぞれ違う環境にありながら、子どもを通して知り合いになっていき、お互いを尊重しあって親密な関係を築いていく。
だが、そこに入り込んでくる不穏な空気。子育てと教育の狭間で悩み他の母親たちの動向に耳をすます。
私学の有名校を受験するために、幼児教室に通わせ我が子の至らなさに歯がゆいおもいをする。自分だけが疎外されてるのではないかと疑心暗鬼に陥り執拗に行動を監視する。信じていた子どもの心が壊れていっていることに気付かなかった母親、子どもが望むからとアニメを垂れ流し、お菓子を与え続ける母親、子どもの能力以上の期待をかけ、知らないうちにストレスを与え続けてしまう母親。
いろいろな家庭があり、それぞれの家庭なりの事情がある。みんな幸せになろうとしているだけなのにそこにエゴや虚栄や欺瞞が入り込み、あやういバランスを保っている人間関係の均整を簡単に崩してしまうのである。
本書は幼少の子を持つ親が読むには、かなりの努力を要するかもしれない。それほどにここに描かれている事柄は多分にリアルで恐ろしい。まさに息詰まる話なのだ。
妻として、母親としての矜持と慢心。相反するこの二つの要素が如何に脆く裏返りやすいものなのかが手に取るようにわかってしまう。それを愚かなことだと見下してしまえないところに本書の怖さがあるのである。