ベスト・オブ・コニー・ウィリスということで、彼女の中・短編のヒューゴー賞、ネビュラ賞を受賞した作品ばかりを集めてある。本国では一冊で刊行されているのだが、日本ではユーモア編、シリアス編の二冊本で刊行されていて、本書はそのユーモア編ということだ。収録作は以下のとおり。
「混沌ホテル」
「女王様でも」
「インサイダー疑惑」
「魂はみずからの社会を選ぶ 侵略と撃退:エミリー・ディキンスンの詩二篇の執筆年代再考:ウェルズ的視点」
「まれびとこぞりて」
この中の二編「女王様でも」と「インサイダー疑惑」は既読。しかし、再読してもやはりウィリスはおもしろい。それぞれテーマの扱い方もうまいと思うが、何より彼女の描くストーリーはドラマとしてまことに秀逸に組み立てられており、細部の描写を本筋にからめて場面を盛り上げたり、ベタな展開を敢行してカタルシスをあたえたり、翻弄と慣習を手玉にとって読む者の気持ちを高揚させる術に長けている。
ウィリスは紛れもないSF作家のベテランなのだが、ぼく的にはそんなことは些細な副次的要素であって彼女は天性の語り部であり、本当におもしろい小説を書く作家なのだ。
たとえば「混沌ホテル」は、コメディの王道のような作品で、根幹に量子論とカオス理論が絡んでいるところがミソなのだが、ただ単純にドタバタコメディとしても普通に楽しめる作品だ。ぼくはこれを読んで、最近のアメリカのコメディドラマ(たとえば「シェキラ!」とか「グッドラック・チャーリー」とかのディズニー系の健全なホーム・ドラマ)を思い出した。とにかく狂騒的に物事がすすんでゆき、行きつくところは根幹のテーマなのだが、それがギャグ化していて笑いを誘う。
「魂はみずからの~」は、詩人のエミリー・ディキンスンを紹介する生真面目な評伝のような出だしから突然おもいもよらぬ方向へと話がすすんでいく。この作品はとあるアンソロジー用に書き下ろされた作品なのだそうだが、そのテーマを知っていながら読むのとまったく知らずに読むのとでは作品から受けるインパクトはだいぶ変わってくると思われる。当然、知らなかったぼくはこれを読んで、その展開に笑ってしまった。まさかそうくるとはね。
「まれびとこぞりて」はかつて読んだことのない『ファースト・コンタクト』物。そこにクリスマスが合わさってスクリューボール・コメディ的展開をみせながら、またもや狂騒的に物語はすすんでゆく。ウィリスお得意のクリスマス物の一編なのだが、残念ながらぼくはメイン・テーマである讃美歌やクリスマス・キャロルにさほど馴染んでいないので、その点では少し損をしている。だが、やはりストーリー展開の妙は存分に味わえるので、おもしろかった。謎を解くキーが伯母さんにあるなんてところが大好きだ。
というわけでウィリスはやはり素晴らしい。だが、本書の姉妹編である「空襲警報」は読むかどうかは未定である。なぜならその収録作のほとんどが既読なのだ。読んでいない作品も積んである第一短編集「わが愛しき娘たちよ」に収録されているので、なんか買う気がしないんだよね。でも、講演会のスピーチは読んでみたい気もするのだが・・・・・。