読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2008-03-01から1ヶ月間の記事一覧

原宏一「床下仙人」

う~ん、これはちょっと微妙だなぁ。啓文堂書店のPOP広告から火がついて、またたく間に全国の書店で売り上げをあげたといういわくつきの本だが、どうもぼくには合わなかった。 本書には5編の短篇が収録されている。タイトルは以下のとおり。 ・「床下仙…

空飛ぶ二人

チュエッチ・スタイルの彼女が飛んだ。大きく弧を描いて、高く足を跳ね上げながら。 追いかけるぼくは自慢の翼でかっこよく飛んだつもりが、目測を誤ったらしく彼女のずっと後方になって しまった。空は青く、光があふれ、頬にあたる冷気をふくんだ風が気持…

菊地秀行「妻の背中の男 幽剣抄」

いよいよこの幽剣抄シリーズも本書で終わりである。名残惜しい気がするが、とうとう読み終わってしまった。いまになって菊池秀行を読むなんて思いもしなかったが、このシリーズは断然読むべしである。 時代小説と怪異という組み合わせはなんの新奇さもないも…

大谷昭宏「事件記者 新婚夫婦殺人事件」

本書の単行本が発売されたのが、1987年。それが幻冬舎アウトロー文庫になったのが1998年。 ようやく、この《幻の傑作》と呼ばれていた本を読むことができた。といっても、ただ怠慢なだけでいつでも読めたのに、読まなかっただけなんだけども。 本書…

北村薫・宮部みゆき編「名短篇、さらにあり」

やはり読んでしまった。 本書に収録されている作家陣は、前回の「名短篇、ここにあり」に収録されていた作家陣より、さらに年代が遡る。そして、一人も読んだことがない。 収録作は以下のとおり。「華燭」舟橋聖一「出口入口」永井龍男「骨」林芙美子「雲の…

新野剛志「もう君を探さない」

新野 剛志の作品を読むのは、本書が初めてである。タイトルに惹かれて読んでみた。 ハードボイルドとしての体裁はなかなかのものである。警句に満ちたシニカルな言い回し、失踪人探しを軸にして展開する起伏に富んだ物語。主人公の女子高教師である高梨龍平…

「白い物体」

深夜に自転車に乗って堤防をスイスイと飛ばしていたら、月明かりに映える川面になんだかわけのわから ないものが浮いていた。 その川は水深50センチくらいの浅い川で流れもなく、普段からゴミが堆積しているようなドブ川だった ので、白いゴミ袋か何かなん…

小路幸也「空を見上げる古い歌を口ずさむ」

気になっていたこの本をやっと読むことができた。メフィスト賞受賞作ということで、まあ一筋縄ではいかない作品なんだろうなとは思っていたが、まさかこんな話だったとは予想もつかなかった。 まず、ある日突然自分以外の人間の顔がのっぺらぼうに見えてしま…

山本弘「闇が落ちる前に、もう一度」

「神は沈黙せず」は、ほんと久方ぶりに熱狂した小説だった。まずその情報量の多さに圧倒され、尚且つそれを物語の渦中に巧みにとけこませ、人類最大の謎ともいえる神の存在に肉薄する周到な構成は、他の追随をゆるさない確かな技量を見せつけて秀逸だった。…

古本購入記 2008年2月度

やっぱり新潮のクレストブックスのシリーズはいいよなぁ。ほんと全部集めたいくらいに大好きなシリー ズだ。刊行されだした当初は、なんだこの軽い本は!と驚いて、どちらかというと白々しい目で見ていた のだが、これが定着してみると好ましく思えてくるか…

篠田節子「弥勒」

まずタイトルが良い。弥勒菩薩とは『兜率天の内院に住み、釈迦入滅から56億7000万年後の未来の世に仏となってこの世にくだり、衆生を救済するという菩薩』だそうで、これをタイトルにもってきたところにこの本の凄さがある。そう、本書のメインテーマは『救…