いよいよこの幽剣抄シリーズも本書で終わりである。名残惜しい気がするが、とうとう読み終わってしまった。いまになって菊池秀行を読むなんて思いもしなかったが、このシリーズは断然読むべしである。
時代小説と怪異という組み合わせはなんの新奇さもないものだが、菊池氏はそこに士道を持ち込みあろうことかユーモアまでもを醸し出してしまうという離れ業をみせてくれたのである。これは読んでもらわなかくては伝わらないのだが、絶妙の匙加減というかまさしく巧者菊池秀行ここにありという感じなのだ。
さて、では本書の紹介にうつろうか。本書の収録作品は以下のとおり。
第一話「妻の背中の男」
鯛の顔
第二話「うるさ方」
覗く
第三話「生ける死者」
夜の番所
第四話「からくり進之丞」
蜃気楼
第五話「僕の世界」
元服宣言
第六話「戦さ人」
今回もまた楽しく読んだのだが、ラストの「戦さ人」に登場する90を超えたかつての剣術指南の老人には笑ってしまった。歳をとりすぎて、ところかまわず眠ってしまうのだ。これではまるで吉本新喜劇ではないか。「うるさ方」に登場する厳格で口うるさい叔父の幽霊もおもしろい。表題作である「妻の背中の男」も怪異自体は空恐ろしいものだが、そこはかとなく漂うユーモアが秀逸だった。
変わって掌編になるとこれはもう独壇場とでもいうべきもので、よくこういう話を思いつくなと感心してしまう。特に「夜の番所」と「蜃気楼」のニ作品は不条理が微妙にズレた論理感でもって描かれおり、これは埋もれさせておくには惜しい作品だと思ってしまったくらいだった。
というわけで、幽剣抄シリーズは本書で閉幕となってしまったわけなのだが、先頃角川文庫から「逢魔が源内」という本が出たので、今度はそれを読んでみようと思っている。
こちらもなかなかおもしろそうですぞ。