う~ん、これはちょっと微妙だなぁ。啓文堂書店のPOP広告から火がついて、またたく間に全国の書店で売り上げをあげたといういわくつきの本だが、どうもぼくには合わなかった。
本書には5編の短篇が収録されている。タイトルは以下のとおり。
・「床下仙人」
・「てんぷら社員」
・「戦争管理組合」
・「派遣社長」
・「シューシャイン・ギャング」
とても読みやすいのでまたたく間に読了してしまったが、イマイチなんだなこれが。表題作にもなっている「床下仙人」は念願のマイホームを手に入れたはいいが、そこの床下に住みついてしまった何者かとそれをめぐる家族の物語。ここで描かれる家族像は、現代の社会においてどこの家庭にも見出される諸問題を浮き立たせており、それを物語の通低音として響かせているところが曖昧な印象を与える。どういうことかといえば、奇想小説なら奇想としての物語展開でもって読者を楽しませてくれれば良いのであって、そこに現代社会におけるサラリーマンの悲哀や、家族の中での父親の役割などという現実的なストレスを持ち込まないでほしかったということなのだ。これは他の作品にも共通した印象である。
ただラストの「シューシャイン・ギャング」のみは、ちょっと楽しめた。家出した少女と、家族に見放された中年男が出会い、お互いを助けあって生きていくという話なのだが、ベタであったとしてもこういう話は結構好きなのだ。
総じていうならば、発想は奇想までもいかないとしてもそこそこ奇を衒ったものであり、いままでにないタイプのものなのだが、それを転がす先が少し好みとは違ったというところか。
しかし、この一冊で見切りをつけるのは惜しい気もするので、もう一冊読んでみようとは思っている。