読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

スティーヴン・キング「ファインダーズ・キーパーズ(上下)」

      イメージ 1 イメージ 2


 キングの本格ミステリー第二弾ということで、巨匠のクライムサスペンスなのでございます。相変わらず物語をグイグイ引っぱってゆく手腕はさすがと唸ってしまう。しかし、それが筋を追うだけの薄っぺらいものでないのはあたりまえ。キングって何歳になっても、饒舌をやめられないのね。

 

 今回の事件は、隠遁生活に入ってしまった超有名作家の家に三人組の強盗が押し入る場面で幕をあける。強盗たちは多額の現金とその老作家が隠遁生活の間に書きためた大量のノートを奪い、逃亡。主犯のモリスはその作家の大ファンであり、彼にとっては多額の現金よりも百冊を超えるノートがまさしく至宝だった。しかし、彼はそのノートの内容を確かめられないまま他の罪によって投獄されることになる。

 

 そして三十年の時が流れ、登場する一人の少年ピート。彼の父親はあの「ミスター・メルセデス」の事件に巻き込まれ命は取りとめたが障害を負っていた。そのため家は困窮し両親の間では毎晩言い争いが絶えなかった。そんなある日ピートは、家の近所の川の辺で古びたスーツケースを発見する。前夜の雨で土が洗われ、露出したらしい。そのスーツケースの中には多額の現金と百冊以上の高級ノートが入っていた。彼はその現金で家族を救おうと一計を案じ、彼の家族は困窮生活から抜け出ることができたのだが、やがてモリスとピートは作家の残したノートをめぐって相まみえることになる。

 

 これもキングがよく描く『作家物』の系列に連なる作品だ。ここに登場する伝説の作家ジョン・ロススティーンは、もちろん架空の作家。しかし、そこはキング素晴らしい肉付けによって、あたかもその作家が存在していたかのような錯覚を起させるほどである。彼の描く(この場合の彼ってロススティーンのことね)ジミー・ゴールドを主人公にした『ランナー』三部作は、犯人であるモリスと少年ピートのどちらをも虜にしてしまう。そして物語の要となる大量のノートには、そのゴールドシリーズの続編がニ作も書き込まれていたのである。

 

 この設定は小説好きにはたまらない。だって、自分の愛してやまない作家の未発表長編が完結した形でニ作も残っていたとしたら、どうですか?ましてそれを自分一人が手にすることができたとしたら。少年ピートは、その栄誉に恵まれ、世界中でただ一人それを読むことができた。かたや、犯人であるモリスは三十年以上もその作品を読むという究極の渇望を一身にためこんで、その目的を果たすためだけに行動するのである。

 

 ぼくはここで、モリスに心情を重ね(いや、それは正当な本読みとしてのモラルに反しているのだろうけど)ヤキモキしてしまうのであります。ぼくだったら山田風太郎だよな。彼の(この場合の彼って山田風太郎のことね)未発表忍法帖の長編が世界中でぼくだけのものになったとしたら、卒倒してしまうかもしれない。なのに、それが読めないのである。これはなんとも恐ろしい事態であって、新手の悪夢にでもなりそうだ。ああモリス、はやく読みたいだろう?あなたの気持ちは痛いほどわかるよ。これほどのジレンマはないよね。風太郎の未発表忍法帖の存在がわかっていながら、それを自分の手で保管しておきながら、その時がきたときには、その小説を読むことができないなんて・・・。
 
 おお、こわっ。もう想像するのはやめよう。存在しない小説のことを考えて無限ループにはまってしまいそうだ。みかんでも食べて落ち着くことにしよう。
 
 というわけで、本作を読んであらぬ妄想に身を苛まれたわけなのであります。ところで、ホッジズはどうなの?って思った方、すいません。これは彼の(この場合の彼ってホッジズのことね)物語でもあります。もう本国では昨年このシリーズの最終巻である三作目が刊行されているのですがこれがねえ、ああた、とんでもない方向へ物語が向いちゃってるんですよ。ええーっ!!そっち行っちゃう?ってなもんで、もう第三作の邦訳が待ち遠しいったらありゃしない。

 

 「ドクター・スリープ」からこっち、キングも丸くなったなあと思う、今日この頃。さて、ホッジズたちの運命はいかに?ああ、どうなるんだろう?