ぼくは昆虫と共に大きくなってきた。田舎で育ったから、家の外に出ればすぐ昆虫がいた。なんなら家
の中にも昆虫はしょっちゅう出てきた。ゴキブリ、カマドウマ、アシダカグモ、ウマオイ(スイッチョン
れだけの虫がよく出没した。外に出れば、バッタやカマキリや数々の甲虫やトンボやチョウやハチなんか
がわんさかいた。だから昆虫は嫌いじゃない。むしろ好きなほうなのだ。
そんな昆虫の生態を研究して、放置された遺体につく様々な虫から数多くの情報を導きだす、法医昆虫
学なるものがあるということは、一応知っていた。アメリカでは日本よりも研究が進んでいるみたいで『
死体農場』なんてのがあって、死体が自然の状況でどうやって分解されていくのかを詳細に観察してデー
タ収集しているそうな。そういえば、ちょっと前にシカが遺体の骨を食べていたというニュースがあった
よね。
本書を読んでいると死体の腐敗分解に絡む虫が四つのグループに分けられるという話が出てくる。まず
第一に屍肉食の種。主にハエとカツオブシムシ。次にくるのが蛆や、そこにいる甲虫を食べたり、寄生し
たりする節足動物のグループ。そして三番目が大型のハチとアリ。それに一部の甲虫。第四はクモ。クモ
は網を張って、集まってくる虫たちを捕食する。
あたりまえだが、そんなことまったく知らなかった。死体があれば蛆が湧く。ただ単純にぼくはそう思
っていた。しかし、分解の過程にはそんな虫たちのドラマが繰りひろげられていたというわけなのだ。本
書にはそういった虫の豆知識がいろいろ登場して、興味をかきたててくれる。まあ、虫嫌いの人には耐え
られない場面も出てきたりするんだけどね。だって、事件の発端が放火殺人が疑われる現場にあった炭化
した焼死体を検死解剖したら、消化器官が胃までほとんどなくなっていて、代わりに蛆が固まってできた
ソフトボール大の蛆ボールが見つかり、あろうことかメスを入れたら生きている蛆がわんさか転がり出て
くるんだからね。
どう?なんでそんなことになるのか不思議じゃないですか?ぼくなんか気持悪さより、その興味が勝っ
て、どんどん読まされちゃったってわけ。でも、この蛆ボールに関する限りもうちょっとインパクトある
現象に対する説明があったら良かったのにと思ったんだけどね。
とにかく、シリーズのとっかかりとしてはなかなかおもしろかった。要の法医昆虫学の准教授である赤
堀涼子のエキセントリックで憎めないキャラも好感もてるし、なんか意味深な関係になりそうな刑事の岩
楯祐也警部補もいい奴そうだし、これからもこのシリーズは読んでいきたい。
ていて、その名を冠した賞もあまり信用してないところがある。今まで読んできたのも多岐川恭の「濡れ
た心」、首藤瓜於の「脳男」、薬丸岳「天使のナイフ」の三作のみ。幸いこの三作は個人的によほど厳選
しただけあって おもしろかったけどね。残りの作品の中で間違いなくおもしろそうと思えるのは井沢元
の「よろずのことに気をつけよ」は飛ばして、この第二作から読んでみたというわけ。
ま、虫好きだから自然な選択か。今後、この切り口でどう新味を出してくるのか大いに期待したい。マ
ンネリだけは避けて欲しいけど、現在、第五弾まで出てるみたいだし、好評をもってむかえられているん
だと思う。さてさて、どんな虫たちの奇妙な生態にであえるんでしょうね。