この人やっぱりおもろいわ。いまだかつてこんな変な話読んだことなかったもの。
本書のストーリーをかいつまんで紹介すれば、なんて変態ちっくな話なんだと思われてしまうだろうが、敢えて紹介してみよう。
まず、一組の兄妹が出てくる。この二人は一緒に長屋の狭い部屋に住んでいる。兄・英則は保健所で身寄りのない犬猫を殺処分する仕事に就いている。妹・奈々瀬はまるで兄の恋女房のように家で家事にいそしみ、兄の様子を伺いながら日々を過ごしている。しかし、二人は決して仲睦まじい兄妹ではなかった。毎日マラソンに行くといいながら天井裏にもぐりこみ妹を覗く兄。彼は昔、奈々瀬にある事をされて両親と右足の機能を失ったことを根にもち、最悪で最高の復讐を完遂すべく奈々瀬を憎み続けている。奈々瀬は、そんな兄に囚われながらも、歪んだ関係に縋りつき卑屈な毎日を生きがいにして過ごしている。
いやあ、なんとも奇妙な関係だ。ぼくの至らないストーリー紹介なんて一回読んだくらいではまるでチンプンカンプンでしょ。これが本書を読めば案外抵抗なくスルスルと気持ちの中に入ってくるから不思議だ。狂言廻し的存在である一組のカップルの介入で、この奇妙な兄妹関係の均整が崩れ、クライマックスへ向けて物語が走り出すのだが、登場人物たちの造形に一本太い芯が入っているので、話がまったくブレずに着地していくところが素晴らしい。
冷静な目で見れば、なんとも気持ちの悪い関係の二人。少しづつ浮上してくる二人の関係に横たわる過去の出来事。波が起こり、すべてを呑みこんで過ぎ去ったあとにはいったい何が残っているのか。
深いようで軽く、けっこう淡白でもある本書は、そんな感じで幕を閉じる。
やっぱり本谷有希子はおもろいな。