読書の愉楽

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ブッツァーティ「神を見た犬」

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巷で話題になった、この光文社古典新訳文庫の初読み作品は本書「神を見た犬」となった。

 

ブッツァーティといえば、以前「待っていたのは」という短編集を読んで大変感心したのだが、本書はイマイチ乗れなかった。

 

本書に収められている作品の多くに、奇想作家としてのブッツァーティの力量を推し量れるものが少なかったのだ。もし本書によってこの作家の本を初めて読むという人がいたら、ぼくが思うに離れていく人が多いような気がするのである。一応、有名作である「七階」や「神を見た犬」などが収録されてはいるのだが、その他の多くはどうも要領を得ない、言いかえればパッとしない作品が多かった。

 

そんな中でも気に入った作品はというと「コロンブレ」、「風船」、「護送大隊襲撃」、「驕らぬ心」、「戦艦《死》」くらいかな。

 

「コロンブレ」は、世界中の船を操る男たち誰もが恐れているサカナに目をつけられてしまった男の運命を描いているのだが、皮肉なラストがこの作家らしい。

 

「風船」は胸が痛む話。この仕打ちには腹の虫がおさまらない。

 

「護送大隊襲撃」は、牢獄を出てきた山賊の首領ガスパレ・プラネッタがかつての仲間にも見放されたのち、この百年の間襲撃に成功した者は一人もいないといわれている租税金貨を運ぶ護送大隊の襲撃を目論む話なのだが、幻想的なラストが秀逸だった。

 

「驕らぬ心」は、修道士と若い司祭の話。立場の逆転が効果的に使われて感動を誘う。

 

「戦艦《死》」は、戦時中の秘密のベールに包まれたある出来事を掘り起こした一冊の本の内容を紹介するという体裁で語られる。ゆえに、そこにはドキュメント的な緊迫感が生まれ、読む者を魅了する。

 

本短編集に収録されている短篇は22篇。有名作ニ作を除いて、五作だけが読むに値する作品だったのだから、作品集としては成功してるとはいえないだろう。

 

どうか、この短編集でブッツァーティに接してみようとは、なさらずに。他の短編集をオススメいたします。といっても「待っていたのは」も「七人の使者」も絶版なんだけどね。