スタージョン再評価の中で出版された本書は、スタージョン初心者にもおおいにオススメできる傑作短編集です。
本書より前に刊行された「海を失った男」は、少しマニアックすぎるきらいがあり、スタージョン初心者には少し重たいんじゃないかと思ったし、ぼく自身も消化不良の感じがしました。しかし、本書は誰でも楽しめる内容になっています。
各編について一言いってみましょうか。
『高額保険』
スタージョンの商業誌デビュー作だそうで、ショートショートなのだが一応ミステリであり、トリッ クもある。アイディアストーリーとしてソツなく仕上がっている。
『もうひとりのシーリア』
スタージョンって、ちょっと変わったシチュエーションをさらりと書いてくれるから好きだ。ここで 描かれるのは「屋根裏の散歩者」。あかされる謎が噴飯ものであるにもかかわらず、視覚的にとて もおぞましいという稀有な作品。なんか生々しいのだ。
『影よ、影よ、影の国』
これは、前にも紹介した。詳しくはシオドア・スタージョン「影よ、影よ、影の国」 - 読書の愉楽 (hatenablog.com) に書いてます。今回は白石朗氏の新訳ということで、前に読んだ時より、継母の悪意がストレートに伝わってきた。
『裏庭の神様』
ユーモアが全面に出た好編。言ったことが真実になったら、さぞかしいい目がみられると思いきや、 主人公はかなり苦労を強いられる。人間の使っている言葉が、いかにひねくれているかよくわかっておもしろい。
『不思議のひと触れ』
スタージョンは、やはり甘い。だからこんなにロマンティックでスウィートな作品が書けるのだろう。でも、生々しさまで感じさせるところはさすがだ。
『ぶわん・ばっ!』
ジャズ小説。スタージョンは、自身ギターを弾いたりして音楽の造詣も深かったらしい。小品ながら気持のいい展開だった。
『タンディの物語』
スタージョンの私生活がのぞける好編。構成も秀逸。本書の中で、二番目に好きな作品だ。
『閉所愛好症』
ひねくれた設定の、オタクが主人公の物語。「どんなことも無条件にそうだとは限らない」というスタージョンの法則にのっとって書かれたという作品。内向的、神経症というマイナスの要素が、仮説の中で、すべて表舞台に飛びだす要素になってしまう。
この、仮説部分が本書の白眉。そしてラストですべてがひっくり返る。何を言っているのかわからないと思うので、とにかく読んでみて欲しい。本短編集で三番目に好きな作品だ。
『雷と薔薇』
これが、本短編集のマイベスト。核戦争後の世界を描いているのだが、先のない世界の虚無感や情熱とは無縁の人々の姿が、うまく全面に出ている。閉鎖的な空間が舞台として選ばれており、それが世界の状況を空恐ろしく浮かび上がらせている。世の中のシステムの盲点も驚く形で登場し、ラストは救いがないようでいて、明るさにみちている。
『孤独の円盤』
こういうシチュエーションを思いつくことにまず感心するし、またそれをここまで引っぱって話をふくらませる手腕にも脱帽。『不思議のひと触れ』とだぶってしまうのだが、つくづくスタージョンは甘い作家なんだなあと思った。
以上、十一編、総じておもしろい。スタージョンなんか読んだことないって人にもオススメです。是非どうぞ。