読書の愉楽

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誉田龍一「消えずの行灯 本所七不思議捕物帖」

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 一昨年刊行された新人さんの時代ミステリ短編集である。かの有名な本所七不思議を題材にして七つの短編が収録されている。本所七不思議といえば宮部みゆきの「本所深川ふしぎ草紙」が有名で、ぼくも以前読んだこともあり、いまさら七不思議といわれても目新しくもないなぁとも思っていたのだが、これが読んでみると意外とおもしろい。

 まず、本書の特色として副題にもあるとおり捕物帖というだけあって、ミステリ色が濃いというのが挙げられる。最初の三編を読んだ段階でぼくは本書を江戸版の『ガリレオ』ではないのかと思ったくらいなのだが、これはうがちすぎだったみたいで全編通してみれば、その特色は当てはまらなかった。しかし江戸の時代を舞台にしてうまく科学的根拠をつないで真相に辿りつくという話が多くて、なかなか楽しめた。

 もう一点言及しておきたいのが、各話に登場する歴史上の有名人の扱いだ。本書の時代設定は丁度ペリー率いる黒船が来航した幕末の動乱前夜である。この時代、歴史に名を残す才人、傑物が数多く輩出されたのだが、それが本書では思わぬ形で登場するからおもしろい。いってみれば風太郎の明治物のあの人がこんなところに的な意外な組み合わせが楽しめるのである。主要登場人物からして、主役のワトソン役こそ作者の創作だが、探偵役とその他二人の仲間にしても誰もが知っているあの人たちだし、各話に登場する人物も意外性があって毎回それが楽しみとなった。それと、これはあまり内容とは関係ないのだが毎回登場する探偵役の決まり文句「しかと然諾」と「紅炉上一点の雪」も最初はなんのことやらと頭をかしげていたが読み進めるにつれ馴染んでいき、気に入ってしまった。

 本書の後、この作者はジュブナイルの歴史物しか書いてないみたいだが、また本書のような遊び心のあふれる時代ミステリを書いて欲しいものである。本所七不思議は、本書で終わってしまったのでもう扱えないがこの作者なら、またおもしろい時代ミステリを書いてくれると思うのである。

 では、付記として本所七不思議をここに挙げておこう。

 ・消えずの行灯(別名 燈無蕎麦 あかりなしそば)

 ・送り提灯

 ・足洗い屋敷

 ・片葉の芦

 ・落葉なしの椎

 ・置いてけ堀

 ・馬鹿囃子(別名 狸囃子)

 これに「津軽の太鼓」「送り拍子木」が加わるバージョンもあるらしく、組み合わせは色々のようだ。

 まあ、どちらにせよこういう都市伝説はいつの時代でもおもしろいものである。