オーケンの処女小説が本書なんだそうで、これが胡散臭い宗教を扱っているからなかなか手を出す気にならなかったのだが、読んでみれば至極おもしろい本だった。新興宗教が舞台になっているのは間違いないのだが、本書で描かれるメインの要素は一種の超能力戦なのだ。
主人公は内向的な性格の高校生ジロー。彼はその性格ゆえに世を拗ねており、それが行き着いた果てが世の中の破壊なのだが、それを実現できるはずもなく、鬱々とした日々を過ごしている。そんな彼の同級生なつみさんが発狂して学校を去ってしまうのが事の発端。
なつみさんが去ってひと月ほど経った頃、ジローは駅前で怪しげな宗教の勧誘をしているなつみさんと再会する。それが新興宗教オモイデ教なのだが、そこでは人を狂い死にさせる『誘流メグマ祈呪術』を扱う伝道師が多数存在し、なつみさんもそのエキスパートになっているというのだ。にわかに信じがたい事実を知らされたジローを勧誘するためになつみはメグマ祈呪術を遣い、ある人物を狂い死にさせることに成功する。不思議な力を目の当たりにしたジローはこのオモイデ教をめぐる血腥い戦いに巻き込まれてゆくことになるのだが・・・・。
まず、この『誘流メグマ祈呪術』を使った超能力戦が白熱して興奮させる。だが、それだけのエンターテイメント小説でないのが本書のいいところ。ここには若者が思いえがく思想があり、焦りがあり、苦悩があり、リビドーがあるのだ。だからこれだけ血腥い話なのに、青春小説としての初々しさとときめきも同時に感じることができるという稀有な体験を得ることができるのだ。
オーケンはやはり才能のある人なのだ。いままで二冊(「ステーシー」、「リンウッド・テラスの幽霊フィルム」)読んできて、それほど心を掴まれることはなかったが、なんとなく気になる存在だったって感じだったのが、本書を読んではっきり自覚した。ぼくはこの人、好きである。だからこれからも色々読んでいこうと思うのである。