読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

「背徳についての七篇-黒い炎」

 

 



 

 こんなおもしろいアンソロジーが出てるなんて、まったく知らなくて。本書が第三弾なんだって。本書は背徳についての七篇で、これの前に女体についての八篇「晩菊」と女心についての十篇「耳瓔珞」が出てるらしい。さっそく買ったけどね。

 

 で、本書なのである。永井荷風はじめて読んだけど(近代日本文学って、すこぶる疎いのでございます。まったく未知の世界なのでございます)今読んでもまったく古くないね。その普遍性にまず驚くね。人の営みはいつの世でも同じなのだ。わかっちゃいるけど、こうやって目の当たりにするとびっくりしちゃうね。荷風の作品は二篇収録されているけど、どちらもおもしろかった。ドキドキしちゃうよね。

 

 本書の中で一番グイグイ引っ張られて読んだのがラストの河野多恵子「雪」。背徳っていうテーマとは程遠い感触なんだけど、これはすこぶるおもしろかった。ていうか、本書の中で真の背徳物って小島信夫の表題作だけじゃね?すんごく歪んだ話で、自分の立ち位置とは程遠い世界に位置する人たちの話なので、まるで理解できないところが素晴らしい。ぼくはこの話の主人公の対極におりますです。

 

 幸田文の話も短いながら、あざやかにハッとさせられて新鮮。うまいねえ。久生十蘭の「姦」は、女同士の電話の会話から意外な展開に発展していくさまがおもしろい。でも、苦手なのもあって、円地文子の「原罪」は、やたら文章が長ったらしくてまったくつつましくない。言っていることは物事の本質をついていて素晴らしいんだけど、それが長々しくてうまく咀嚼できないのだ。この人は苦手だなあ。

 

 でも、総じておもしろかった。編者の安野モヨ子さんの挿絵も素敵だし、これはメッケもんじゃないの?あと二冊も順次読んでいきますよ。