読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

影山徹 「空からのぞいた桃太郎」

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 視点が変わるともちろん見え方が変わってくる。いままで見えていなかったものが見えてくる。本書は誰もが知っている『桃太郎』の物語を空からみることによって、新たな側面に光をあてた絵本なのである。

 

  さて、おたちあい。桃太郎のハナシは誰でも知ってるはず。川から流れてきた大きな桃をおばあさんが拾い、そこから桃太郎が生まれ、やがて成長した桃太郎はイヌ、サル、キジを家来にして鬼が島に鬼を退治に行き、その成果としてお宝を持ち帰り、末永く幸せに暮らしました。―――というおはなしだ。

 

 本書はこの誰もが知っている一番有名なヒーロー譚を空から眺めた一風変わった絵本なのである。
 
 だから、開巻早々読者は本書でしか味わうことのできない立ち位置で物語を体験することになる。どういうことかというと、俯瞰でみるという行為そのものが物語の当時者から距離をおくことになって、神の視点でこの物語世界と接することになる。それは、読者を物語の登場人物と同化させるというもっともポピュラーな没入方法を封じることになる。だから、最初からこの絵本を読む者は共感と対極のスタンスで挑むことになるのだ。

 

 ちょっと堅苦しい?でも、もう少しお付き合いねがいたい。神の視点という特別な立場を得た読者は、傍観者としての余裕をもったままこの世界を冷静に分析しながらストーリーを追うことになる。余裕は余白を生む。単純だった物語のはずが、落ち着いて見つめ直すことによって隅々まで行き届く目がその余白を見つめ、物語の新たな側面をとらえるのである。その側面は読む人それぞれが感じ取ればいい。人の数だけ解釈が生まれて当然だ。

 

 ま、そんなことはおいといて、ただ単純にこの絵本を楽しむという読み方もできる。本好きならご存知だろうが本書の著者の影山徹氏は本の表紙でも有名なイラストレーターだ。ぼくも彼の絵は大好きで、特に魚眼レンズを通して見たような広角の絵には魅了される。だから、本書も隅々まで目を凝らしてゆっくり見て欲しい。ディティールまで凄く楽しめる絵本なのである。

 

 さあ、興味をもたれた方は是非読んでいただきたい。いままで何気なく馴染んできたこの単純な勧善懲悪の物語が、実は・・・・・・だった事実をその目で確かめてください。