読書の愉楽

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文藝春秋編 「こんな人たち アンソロジー人間の情景4」

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この文春文庫の『アンソロジー人間の情景』シリーズは、お買い得なのですよ。けっして傑作短編ばかりということはないが、こういう本でしか出会うことのない作品を読めるってところが非常にお得なのだ。

 本書に収録されている作品は以下のとおり。


 Ⅰ・ちょっとばかりヘンな人

  「人の棲家」 平林たい子

  「自由の館」 ラードナー


 Ⅱ・天才のかなしみ


  「本気で打ってもよろしいか」 田村竜騎兵


 Ⅲ・町角の風景

  「たばこ娘」 源氏鶏太

  「一年の計」 佐々木邦

 
 Ⅳ・ふしぎな世渡り

  「ある本の物語」 ミドルトン

  「女ペテン師ザビーネの冒険」 種村季弘

 
 Ⅴ・人はみかけに・・・

  「サムの弟子」 マッカレー

  「とんかつ」 三浦哲郎


 Ⅵ・奇人でわるいか

  「明治奇人伝(抄)」 風見章

  「福翁自伝(抄)」 福沢諭吉


 みじかい話

  「サウンド・オブ・ミュージック」 和田誠
  「田楽豆腐」 森鴎外
  「重兵衛さんの一家」 寺田寅彦
  「殿様はクーデターがお好き」 浅羽通明

 
 ね?ラインナップ見てもわかる通り、とっても希少な作品が揃っていると思いませんか?この中で個人的に一番印象に残っているのは「ベートーヴェンまいり」である。これ、ほんと驚いたのだがあのワーグナー(本書ではヴァーグナーと表記されているが、ぼくはこう書きます)が書いた小説なのだ。若いまだ芽の出てない作曲家が、極貧ながらもリスペクトしてやまないベートーヴェンに会いに行くという話なのだが、ワーグナーベートーヴェンの取り合わせにワクワクしてしまった。ワーグナーって小説でも極めてしまった人なんですね。

 その他の作品ではⅥ章の似作品が印象深い。どちらも昔を懐古する作品なのだが、登場する人物たちがエキセントリックで笑わせる。風見氏の明治期の豪快で不遜で大胆で磊落な人々もおもしろいが、啓蒙家で有名な福沢諭吉緒方洪庵適塾にいた若かりし頃の話がバカばっかりやっていて笑わせる。まったくもって知らなかったが、この人アル中一歩手前だったんだね。偉い人ってイメージしかなかったけど、かなりバカです。

 残りの作品もそれぞれ一読に値する作品だ。傑作ではないけどね。ほんとアンソロジーって楽しいなあ。この文春文庫から出てた『アンソロジー人間の情景』シリーズ、絶版なんだろうけど全部集めて読みたいね。


アンソロジー 人間の情景〈4〉こんな人たち

文芸春秋_::_文春
文藝春秋
472円
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[http://www.honzuki.jp/book/status/no164297/index.html 書評] http://www.honzuki.jp/img/isbn9784167217334.gif