梁石日といえば、はじめて彼の作品に接した「子宮の中の子守唄」を読んだときの衝撃が忘れられない。あの作品で描かれる世界は、同じ日本でありながらぼくが生きてきた世界とはまったく違う世界で、こんなことがあるのか!と何度も衝撃に身を震わせた。未読の方はどうか心して読んでいただきたい。
その後、「子宮の中の子守唄」にも登場した梁氏の父を描いた「血と骨」が映画化されビートたけしが主演してなかなかの話題となったが、あの大作もぼくにとっては「子宮の中の子守唄」の二番煎じでしかなかった。ほんと、あの衝撃はそれだけ凄かったというわけだ。
彼の持ち味は短編でも少しも損なわれておらず、かなり強烈な世界が描かれている。梁石日氏は日常を描いているだけなのだが、そこには必ず反日常的な要素が存在するのでビビッてしまう。表題作と「夢の回廊」は終戦直後を描いているため、あまりにも凄惨な場面に直面させられるが、「蜃気楼」とその他のタクシー運転手を主人公にした作品は、まさにいま我々が生を営んでいる現実である。だが、そこではやはり日常的でない日常が描かれる。暴力と性に彩られた彼の世界は、平凡な毎日を送るぼくに、雷にうたれたかのような衝撃をもたらす。
それは、生きて息をするという最小限の人間の営みをこれほどまでにグロテスクに描くことができるのかという負の挑戦をたたきつけられるようなものだ。
倫理観とか道徳とか社会通念などいう人間社会だけの狭義のルールは、梁石日には通用しない。
もちろんそれは真っ当に生きてゆく上で最優先で守らなければいけないものであり、それができないとなるとアウトサイダーにならざるを得ないのだが、梁石日の作品は、その高い高い壁を軽々と越えてしまうのである。
もちろんそれは真っ当に生きてゆく上で最優先で守らなければいけないものであり、それができないとなるとアウトサイダーにならざるを得ないのだが、梁石日の作品は、その高い高い壁を軽々と越えてしまうのである。
ああ恐ろしい。