読書の愉楽

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池井戸潤「アキラとあきら」

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 700ページあるのだが、読み始めたらアッという間だった。相変わらずのリーダビリティだ。池井戸作品のこういった銀行物の面白さというのは、ある意味カタストロフの醍醐味であって、解決不能な難問または巨大な敵を倒すことで、読者の溜飲を大いに下げてくれるところが読みどころだといっていいだろう。やられたらやり返すの半沢直樹のシリーズや「空飛ぶタイヤ」の巨大企業と運送会社の対決などはそのもっともたるもので、結末の予想はついているのにその結末にむかってページを繰らずにはいられない構造になっている。


 本書もその轍を踏んでいる。ただ、タイトルにもあるとおり本書で描かれるのは二人のあきらの子ども時代からの三十年の出来事であり、そういった意味では大河小説の側面も持っているといえる。大手海運会社の社長の息子である階堂彬、零細工場の経営者の息子である山崎瑛。このまったく境遇の違う二人のあきらが出会う。お互いがお互いを認め合うこの二人のあきらが一つの大きな難問を解決すべく協力して立ち向かってゆく。


 ここでポイントになってくるのが、先にも書いたカタストロフの効果なのだが、正直なところ本書ではそれがあまり効果を発揮していない。銀行物として舞台を特定した構成ではないし、二人のあきらをダブル・ヒーローとして描くことによって主題が分散した印象を受けて、単純な構図ゆえに盛り上がるドラマ部分がさほど強調されなくなってしまった。しかし、それでもページをどんどん繰ってしまう面白さは持続するからたいしたものだ。願わくば、個人的にはもっと悪い奴がこてんぱに叩きのめされるところが見たかった。主人公たちがどんどんどんどん追いつめられて、どうにもできなくなったときに一筋の光明が射し、一発逆転大きな敵がぎゃふんと言わされてしまうというのが理想なんだけどなあ。


 でも、久しぶりの池井戸作品、充分に堪能させてもらいました。ホントこの人、感情をコントロールするのが上手いよね。ついつい乗せられて、どんどん読んじゃうもんね。いまこれをドラマ化したのが放送されているみたいだが、残念ながらWOWWOWは加入してないんだよね。いったいどんな出来なんだろう?気になるねえ。