読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ウィリアム・ピーター・ブラッティ

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 ブラッティは神と大いなる力に魅せられた作家だとおもう。彼の代表作である「エクソシストからして根本は神の実在の証明みたいなものだ。あの映画の強烈なビジュアルゆえに、あのシリーズの存在だけで彼にホラー作家のレッテルを貼っている人は数多いと思うが。


 本書の前に刊行された「ディミター」もそうだった。伝説的なスパイを描くミステリーのように見せかけて、実のところそんなストレートな物語ではなく、濃厚な宗教色が推しだされていた。


 で、本書なのだが、本書も然り。ヴェトナム戦争を軸に、そこで狂気に苛まれる人々とその謎を追う人物。これらが有機的に絡みあい、最終的に神秘性をまとった奇蹟が具現する。その影には、神の存在があり、ブラッティはそれをほのめかしながら興味深い事例を描きまわりから攻めてゆく。


 開巻当初、次々と繰り出されるナンセンスな狂気の会話にいささかうんざしながらも、なんとか読みすすめてゆくと、やがて道が開けてゆく。物の道理を筋道たててわかろうとする自分の常識に振りまわされながらする読書というものの、なんと苛酷なことか。それは一種の拷問でもある。ゆえに、道が開け、視界が澄みわたってすべてが秩序をもったときの開放感は得も言われぬものがあった。その瞬間を体験するだけでも本書を読む価値はあると言ってしまおう。


 さて、いったいぼくが何を言ってるのか気になった方は本書をお読みください。結構薄い本なのだが、本書を読むのには、かなり忍耐が必要だ。でもその試練を乗り越えると、壮大な光景が広がるのである。いやはや、まさに本書を読了するという行為は、険峻な高峰を制するがごとくではないですか。どうか、未読の方は本書を読んで、心かき乱されちゃってください。