読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ピーター・ラヴゼイ「ミス・オイスター・ブラウンの犯罪」

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 ミステリ好きなら御存じのとおり、ラブゼイって人は長編も短編もどちらも素晴らしい手並みをみせてくれる達人なのだが、、この第ニ短編集は第一短編集である「煙草屋の密室」よりは少し落ちるかな?いまでは二冊とも品切れ?「煙草屋の密室」だけでもどうにかなんないものか?

 というわけで、本書に収録されている各作品の寸評いってみましょうか。


■「ミス・オイスター・ブラウンの犯罪」
  
  先が読めちゃうんだよね。清廉潔白な人生を送ってきたミス・ブラウン。五十を過ぎたいま、双子の姉の留守中にちょっとした間違いを犯してしまい、それがもとで崖っぷちに立たされてしまう。ブラックな展開なのだが、最初に書いたとおり丸っとスルッとお見通しになっちゃうのだ。


 ちょっと長くなってしまった。これ以降は、本当に短くいくよ。


■「モデルコン」

 ラストが納得できない。主人公ヴィッキーの行動についていけない。


■「死のひと刺しはいずこに」

 静かな雰囲気の中に不気味さ漂う小品。


■「健全な精神が宿るのは」

 皮肉な結末が溜飲の下がるおもいである。やはり正直に生きてゆかねばならないのだ。


■「ビックリ箱」

 ちょっとサイコの入っている逆転劇。英国本来の持ち味であるゾクッとくる結末がなかなか効果的だ。


■「クレセント街の怪」

 幽霊譚でありソフトなミステリでもある。少し強引な気がしないでもないが、まっいいでしょ。


■「床屋」

 一人称であるがゆえに成り立つこのトリックは少々食傷気味なのだが、これもラブゼイがやるとピタッと決まるからたいしたものである。


■「ヨットマン」

 『モデルコン』とよく似た話。損した気分。


■「ポメラニアン毒殺事件」

 手紙のやりとりだけで進行してゆく話。ひとりよがりな主人公に腹が立つ。それみたことかというラスト。まるでワイドショーだ。


■「ジンジャーの終着駅」

 本短編集の中では二番目に良かった。まさしく【してやったり】な逸品。


■「サマーハウスの客」

 ミステリのお手本的な作品。約束事が守られて、すべてがきれいに結実する快感。


■「ユーダニット」

 はじまりは良かったが、読み終えてみると煙に巻かれた感じでおもしろくない。


■「旅行鞄の中の貴婦人」

 容疑者が三人なのだから、もうちょっとヒネって欲しかった。あまりにも常識的な解答だ。


■「プレゼント交換」

 これは少しヒネってある。しかし、説得力がない。事件に巻き込まれた人たちの対応もピント外れだ。


■「絞殺魔の森」

 ウィリアム・カッツ(知ってる?)が好みそうな設定なのだがそこはラヴゼイ、事件は妙な方向にズレ込んでゆく。


■「奇妙なコンピューター」

 以前「ホームズの新冒険」で読んだ時は、さすがラヴゼイと楽しんで読んだのだが、それほどおもしろくないな。これはもしかしてぼくの感性が劣化しているのではないだろうか。


■「人を食った男」

 子どもの世界が描かれ、微笑ましく思っているとラストで少し悲しくなった。こういう女の子は貴重な存在なのだからこんな目にあってほしくないのだ。


■「シヴァーズ嬢の招待状」

 本書の中で一番好きな作品。これがジャック・フィニィの手になる作品だと言われてもぼくは驚かない。それほどラヴゼイらしくない素敵なファンタジー。心温まるクリスマス・ストーリーである。

 
 以上18編すべてが【してやったり】とはいかなかったが、読んでいる間はそこそこ楽しめたので、良しとしましょう。


ミス・オイスター・ブラウンの犯罪

ピーターラヴゼイ
早川書房
907円
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[http://www.honzuki.jp/book/status/no154837/index.html 書評] http://www.honzuki.jp/img/isbn9784150747114.gif