読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

宮部みゆき「ソロモンの偽証 第Ⅱ部 決意」

イメージ 1

 『決意』と名付けられた第Ⅱ部では、渦中の城東第三中学の生徒たちが事件の真相を追及するべく学校内裁判を開こうと奮闘する姿が描かれる。これは、常識で考えればまさしく茶番でしかない。現役の中学生、それも受験をひかえた三年生が一番大事な時期である夏休みの間まったく埒外の校内裁判に全身全霊で取り組むなんて、ありえないではないか。ま、百歩ゆずって受験のことは気にせず中学生が裁判に真剣に取り組んだことにしたとしても、本書で描かれる彼らの検事、弁護士、判事の取り組み方のスペシャリストぶりには心底驚いてしまった。それぞれの役割に立脚した物の考え方、話のすすめ方、身の置き方等々たとえこれが現役の大学生だったとしても、ここまで徹底できるだろうか?と頭を傾げてしまう周到さだった。

 

 以上のことが、本書を読んでる間ずっとつきまとっていた違和感。中学生なんて、まだまだガキじゃないの。こんな立派に筋道たてて物事をすすめたり考えたりするのは不自然だなと気になってしかたがなかった。

 

 でも、その違和感をおしのけて本書のストーリーは読者を強引に牽引してゆくのである。最後のほうでは、こんなスーパー中学生がいてもいいじゃないかくらいの気持ちで読んでいた。そうしないと心の整理がつかないもの。そして整理をつけて読みすすめなきゃ、真相にたどりつけないもの。

 

 前回、第Ⅰ部を読んで非常にまどろっこしい印象を受けた。物語のすすみ方が異常なくらいスローペースなのだ。それはひとえに宮部氏の書き込みの執拗さがまねいたことだとぼくは感じたし、事実この第Ⅱ部でも、よくまあこれだけねちっこく話をすすめられるものだと感心したくらいなのだが、それでもここまで読んでくるとこのミステリの真相にどれだけの驚きが待っているのだろうかと期待せずにはいられなくなってしまった。

 

 単純だと思われた一人の生徒の自殺。核であるその事件を取り巻いて事態は混乱をまねいてゆく。それぞれの人物の思惑が錯綜し、たった一つの真相が幾重にも重なりあった藪の奥に隠される。

 

 いよいよ第Ⅲ部で裁判が開廷する。いったいこのミステリはどこに着地するのか?しかし、ぼくはここで少しインターバルをおく。だって、すぐに読んじゃうのはもったいないからね。