読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

読書の秋、おすすめの読み物は?

 しろねこさんの記事に触発されて、ぼくもこの『Yahoo!ブログのクローズアップテーマ』で記事を書いてみたいと思う。読書の秋、おすすめの読み物は?ということなのだが、過去にミステリ作品や短編集のオススメ記事を書いたことがあるので、今回は海外文学のおすすめを紹介したいと思う。しかし、いままでに記事で色々言及してきたこともあるので、今回のシバリとして条件をつけて選んでみた。

 

 まずは読んでおもしろいこと。これは大事でしょう。やっぱりおもしろくなきゃね^^。でも、これって個人差があるからぼくがおもしろくても他の人にとってはさほどおもしろくないってこともあるかもしれないが、そこはご容赦ください。そしてもう一つの条件は、いまでは忘れられかけている本に限定しようと思うのである。こんなにおもしろい本が埋もれてしまってはもったいないと思うのが人情でしょう?
 
 だから品切れや絶版になってる本もあるが、そんな扱いをうけてるのが個人的に信じられないと思う本に限定したいとおもうのである。今回紹介する本は、まだ探せば手に入りやすい。かなり品薄になってきているようなのだが。

 

 というわけで紹介していこうか。順位はつけない。どれも素晴らしい本ばかりだからね。だからこの順番はぼくが読んできた順である。

 

 
 まず一冊目はティム・オブライエン「カチアートを追跡して」

 

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 ジョン・アーヴィングの奇妙な登場人物や自由な筋運びに感激していたときにであった逸品がこれ。ヴェトナム戦争から離脱した兵士が歩いて8600マイル離れたパリを目指す。それを追跡する第三分隊
ファンタジーの手法で描かれる悲惨な戦争の現実。圧倒されまくりの読書体験だった。



 二冊目はマーク・ヘルプリン「ウィンターズ・テイル」
 
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 早川FT文庫で刊行されていたからファンタジーに分類されるのだろうが、本書はまぎれもなく海外文学の本流に組する傑作小説である。前回紹介したときも引用したのだが、今回も本書の紹介文を引用しちゃおう『チャールズ・ディケンズの奇怪な登場人物、ガルシア・マルケス魔術的リアリズムの手法、ジョン・アーヴィングの悲喜劇性、トールキンの神話創造力をひっくるめた現代アメリカ文学を代表する傑作』どうですかこの紹介!これだけでも本書がどれだけ凄い小説かがわかろうというものではないか。内容紹介はこの際端折っちゃう。興味のある方だけ血眼で本書を探していただきたい。それだけの労力をかけても決して惜しくはない本なのだから。



 三冊目はトム・ロビンス「カウガール・ブルース」

 

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 最初この本を読んだとき、こんな素敵な書き方もあるんだなと心の底から感心したものだった。だって各章の最初に本筋とまったく関係ない事柄を述べてゆくのだから驚いてしまうではないか。人一倍大きな親指をもってしまった女の子の話が、こんなにキュートで楽しい物語になってしまうってことにも驚いたんだけどね。



 四冊目はアレッサンドロ・マンゾーニ「いいなづけ」
 
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 本書の筋は簡単に紹介できてしまう。結婚を誓い合う二人が、運命によって引き裂かれ、数々の苦難を乗り越えてめでたくゴールインするという話なのだ。たったそれだけの話がこれだけ波乱万丈な物語になってしまうのだから素晴らしい。ぼくは単行本を所有しているのだが上下二段組で800ページ以上もある。しかし、それが一旦読みだしたらたちまち物語世界に惹きこまれてしまうおもしろさなのだ。




 

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 この本、どうして文庫化されてないのだろう?もう七年も前に刊行されているのに。この作者の本は映画化もされた「ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹」のほうが有名だと思う(ぼくは読んでないのだけど)のだが、本書も素晴らしい長編なのである。アメリカに渡ってきたギリシャ系一家の三代にわたる長い歴史。近親婚と両性具有。濃厚で豊穣な物語世界。どうして本書は有名にならなかったのだろう?こんなに素晴らしくおもしろい小説って、そうそうないよ?

 

 

 

 六冊目はヤン・マーテル「パイの物語」

 

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 本書は一筋縄ではいかない物語だ。騙りの妙味とでもいおうか。海難事故に遭遇し、後足を骨折したシマウマ、オラウータン、ハイエナ、そしてベンガルトラと救命ボートに乗り込んだ少年。かれらのサバイバル漂流が本書のメインなのだが、これがラストであんなこと・・・・・・おっと、これ以上は語れません。興を削ぐことになってしまうからね^^。まあ、読んでみて。決して損はいたしません。



 七冊目はベヴァリー・スワーリング「ニュー・ヨーク」

 

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 アメリカ建国以前の1661年開港まもないニューアムステルダムに、理髪師にして天才外科医の兄と、調薬師の妹が降り立つところから物語は始まる。そこは、のちにニューヨークとして世界でも有数の大都市となる場所。そんな黎明期のアメリカの混乱した時代を見事に活写し、痛快無比の人間模様を描ききった本書は8代にわたる世代の医術の開拓に焦点があてられたまさにページを繰るのももどかしい本だった。本書も上下二段組で600ページ強とかなり大部。しかし、これを読み出したらやめられないおもしろさなのだ。



 八冊目はマリオ・バルガス=リョサ「フリアとシナリオライター」 

 

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 昨年ノーベル文学賞を受賞しただけあって、本書は簡単に手に入るみたい。そうでなきゃ、これも埋もれていってたんじゃないかな?ノーベル文学賞ときいて怖気づいたあなた、その見解は間違ってますよ。だって、本書はごきげんで楽しいスラプスティックコメディなんだから。本書はリョサの入門書としてはとてもとっつきやすい本。タイトルにも出てるシナリオライターが書くラジオ劇場のシナリオなんか良質の短編を大盤振る舞いって感じで大満足の一冊なのでございます。




 九冊目はカレン・ブリクセン「冬物語」 

 

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 『生粋の物語作家による物語のための物語』本書を紹介したときに使ったフレーズなのだが、われながらうまいこというなあと気に入ってる。本書を読んだ人だれもが深淵で豊かな物語世界にどっぷり浸かってしまうことだろう。本書は短編集なのだが、どれもが甲乙つけがたい出来栄えで、音楽アルバムでたとえるなら捨て曲なしのゴールデンベストとでもいうべき本なのである。ディーネセン名義の「アフリカの日々」を現在進行形で読んでいるが、こちらも素晴らしい本である。



 十冊目はニコール・クラウス「ヒストリー・オブ・ラヴ」

 

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 実をいうと『本が好き!』で一番最初に献本としていただいたのが本書なのである。当初、あまり期待せずに読みはじめたのだが、これが凡庸で新鮮味のないタイトルに反して素晴らしい本だったのである。本書は一冊の本が巡り巡って人々を繋ぎとめ、知らず知らずのうちに運命を変えていく物語。三者の物語が交互に語られていくのだが物語の終りに近づくまで、この三つの物語がどう交錯していくのかすんなり見えない。しかしそこに混乱はない。それぞれの物語が読み手を惹きつけてはなさない魅力に溢れているから、知らず知らずのうちにラストまで運ばれて縺れた糸がすっきりと解れていくように全体がみえてくるのである。これも刊行されて五年も経つのに文庫化されていない。こんなに素晴らしい物語なのに。



 というわけで、十冊紹介してみた。今回のシバリがなければもちろん「ガープの世界」や「精霊たちの家」や「コレクションズ」や「エデンの東」や「ゴースト・ストーリー」や「その名にちなんで」や「彼方なる歌に耳を澄ませよ」や「さくらんぼの性は」や「いちばんここに似合う人」や「愛のゆくえ」や「日々の泡」などなどは当然選出されていただろう鉄板本である。しかし、今回は最初に書いたように消えてしまいそうな本を中心に紹介してみた。どれもこれも傑作ばかりである。どうかこの記事を読んだみなさん、上記の本たちを埋もれさせないでいただきたい。ほんとうに素晴らしい本たちなのだから。