作家として世に出る野望に満ちた三十路の女性が主人公。彼女は三年前にあまりメジャーでない文学新人賞でデビューしたものの同時受賞したアイドル女優が注目を浴びたため、目立たぬ扱いを受け一ヶ月後には本を出した女優とは対照的にいまだにくすぶったままだ。そんな彼女が作家として名声を確立するまでの過程を連作形式で描いているのが、本書「私にふさわしいホテル」なのだ。
なんといっても、この主人公である中島加代子の燃え上がる情熱がすごい。作家になるために、手段を選ばずなりふり構わず突進してゆくさまは、異様であるがゆえ極上のユーモアとなって描かれる。自分を売り込むために超有名作家を罵り足蹴にし、編集者を抱き込み、着実に名声を高めてゆくところが本書の旨味だ。だが各短編それぞれシチュエーションを変えてあの手この手で描いてみせてはいるが、パターンは同じだから安心して読めると共に読んでいくごとに目新しさはなくなってゆく。そこが少し残念だが、ここで描かれる新人作家の辿るイバラの道は読んでいて厳しさに身震いする思いだ。実名で登場する有名作家や編集者とのやりとり、まだ作家としての自信がつく前の右も左もわからない時に陥る疑心暗鬼。数々のプレッシャーを乗り越えてつかみ取る創作への意欲。賞をとってデビューするのはあくまでもきっかけであって、それから後が本当に困難な道なのだ。次々と新しく良作を書くことができるのか?作家になるということはかように難しいものなのだ。いまさらわかったことじゃないけどね。