同じ人間のした所業だとは思えない。本書で語られるのは本当の異界の物語だ。
紛争や戦争をしているところがあるとはいえ、現代の世界は概ね平和だ。ぼくが生きている今のこの世の中は間違いなく平和だ。
紛争や戦争をしているところがあるとはいえ、現代の世界は概ね平和だ。ぼくが生きている今のこの世の中は間違いなく平和だ。
そして、この平和な世の中があたりまえだと思っている甘ちゃんのぼくには、本書で描かれるような世界はまったくの悪夢世界であり、この世の地獄だ。
本書で描かれる時代で生きるということは、いつも死の恐怖と闘うということだ。イヴァン雷帝のいた時代に生きた人々はなんと勇気のあったことか。なんと血の気の多かったことか。なんと精力的だったことか。
彼が息子ツァーレヴィチ・イヴァンを殺したのは歴史自身が下した正当な罰であろう。この父親似の残酷な息子が父なき後、王位につけばまたあの大虐殺がくり返されることになっただろうから。
スケールが違うのだ。暴君は数あれど、これほどの人はかつていなかったであろう。
イヴァン雷帝は、まず自分自身を神と同等にしてしまった。彼は、悪のもと正義のもと、なんであれその意志に従って自由に人民を裁き、殺すことによって神の威厳を自分のものとし、また神に近づこうとしたのである。
ぼくがこの本を読んだのは1990年だった。だからぼくはノストラダムスの大予言が現実となるのなら、1999年の7月に空からやってくる大魔王は、このイヴァン雷帝なのだろうと真剣に思っていた。
そんなまるで現実的でない思いをおこさせるほどに強烈なやつなのだ、このイヴァン雷帝は。