読書の愉楽

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ダン・シモンズ「ハイペリオン」

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 なんでもこなす器用な作家ダン・シモンズのガチガチのSFである。しかし、本書は決して片手間に書かれた筆汚しなどではない。並のSF作家が束になってかかっても太刀打ちできない程の素晴らしいSF叙事詩なのだ。本書のすごいところはSFという特定のジャンルで物語を紡ぎながらもその中にミステリ、ホラー、ファンタジー歴史小説などのジャンルミックス的なおもしろさを内包しているところである。

 内容については要約できる範囲ではないので省いてしまうが、本書の体裁は連作形式となっている。

 謎の存在である殺戮神シュライクとそれを封印している未来から過去へ時間を遡行しながら存在しているといわれる遺跡群『時間の墓標』。これらの謎を解くため七人の巡礼がハイペリオンに遣わされる。

 本書は壮大な叙事詩のプロローグにすぎない。本書まるまる一冊が長い長い序章なのだ。なのに、このおもしろさはどうだろう。学者や軍人や詩人や探偵といった七人の巡礼たちが物語るそれぞれの物語は、先にも書いたとおり語り手が変わるごとに物語の様相も変化し、バラエティーにとんだジャンル別の楽しみを読者に与えてくれるのである。

 ここらへんのシモンズの筆さばきは見事としか言いようがない。何度も書くが本書はプロローグである。

 だから、数々の謎が解決されぬまま本書は幕を閉じることになる。

 シュライクとはなにか?時間の墓標とは?カッサード大佐が会った女性とは?また大佐が見たという速贄の木にあった獲物とは誰だったのか?レイチェルの罹った時間遡行症とは?

 数々の謎を残したまま物語は終わってしまう。続編を読むのが待ち遠しくて仕方がなくなる。

 だがここで正直に告白するが、ぼくは続編の「ハイペリオンの没落」で挫折することになる^^。

 タイミングが悪かったとしか言いようがないが、どうにもノレなかったのだ。だから上記にあげた数々の謎は、ぼくの中ではいまだに解決されないままなのである^^。

 それはさておき、本書は傑作だ。ダン・シモンズのSF作家としての真価が発揮された正真正銘の傑作なのだ。未読の方でSF、ミステリを愛される方はどうかお読みいただきたい。めくるめくイマジネーションなんて陳腐な言い回しを思わず使ってしまうほど、本書はすごいSFなのである。