読書の愉楽

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ジョイス・キャロル・オーツ「とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢」

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 ジョイス・キャロル・オーツは、多作にも関わらず日本での紹介が行き届いていない、かわいそうな作家だ。彼女の短編集にしたって18年前に刊行された「エデン郡物語」が一冊あるだけで、小説に限ればその他はYA作品と何冊かの長編があるだけだ。もっともっと多くの作品が紹介されるべき作家だと思うのだが、やはり需要がなければ売っても仕方がないので、これだけはチャンスが巡ってくるのを待つしかない。

 

 今回刊行されたのは彼女の中・短編集である。七編収録されていてタイトルは以下のとおり。



 「とうもろこしの乙女 ある愛の物語」

 

 「ペールシェバ」

 

 「私の名を知る者はいない」

 

 「化石の兄弟」

 

 「タマゴテングタケ

 

 「ヘルピング・ハンズ」

 

 「頭の穴」



 なんといっても圧巻はやはり表題作だ。これは以前に創元推理文庫の「十の罪業 Black」に収録されているのを読んだことがあったのだが、誘拐という犯罪を軸に、その当事者の心理と行動を心が痛くなるほど切実に描いていて秀逸。いったいこの話はどこに行きつくのかという興味とそれを上回る息詰まるような描写にいやが上にも緊張感が高まってゆく。これは傑作だ。

 

 以降の作品もそれぞれ十二分におもしろいのだが、この表題作のインパクトが強すぎて、はっきりいって少し霞んで見えてしまう。

 

 その中でも印象深いのはまだ若くして未亡人になってしまった女性が退役傷病軍人によって運営されているリサイクル・ショップで出会った青年に過剰な拠り所を求めて手痛いしっぺ返しを食う「ヘルピング・ハンズ」と悪魔のような兄と障害をもつひ弱な弟という対照的な双子の生涯を描く「化石の兄弟」の二編。

 

 後味の悪さという点では「私の名を知る者はいない」の静的な悲劇がズドンと重く、「化石の兄弟」と同じく双子を扱っていて少し形は違うが同様の破滅をむかえる「タマゴテングタケ」となんとも悲惨でなさけない「ペールシェバ」、本書の中で唯一血まみれな展開をむかえる「頭の穴」の四編は少し印象が弱いがおもしろかった。

 

 オーツはもっともっと精力的に紹介されるべき作家だ。本書を契機にこれからもどんどん翻訳していって欲しいものである。