読書の愉楽

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厭な映画

 最近は映画もあんまり観ることがなくなったのだが、一頃は熱狂的な映画ファンだった時期もあった。丁度高校ぐらいから結婚するまでの間は、読書と並行して大方の有名な映画は吸収しつくしたと思ってる。

 そんな時期に、やはり若気のいたりといおうか、それとも怖いもの見たさというか、本来なら素通りしてしまうような映画も観ている。そんな『厭な映画』というのを京極夏彦の「厭な小説」を読みながらチラホラ思い出したので、ちょっと紹介してみようとおもった次第。でもね、これから紹介する映画は、ほんとちょっとでも気の弱くなってる時や精神的に自立してない時に興味本位で観てしまうと、なんらかの影響をおよぼすかもしれないので、要注意でございます。では、それでも結構という方のみ以下にお続き下さい。

 まず最初に紹介したいのは、アレハンドロ・ホドロフスキー監督の「エル・トポ」である。これは、あのジョン・レノンが大層惚れこんで、次作の分もふくめて興行権を買いとったことでも有名なのだが、なんといってもあまりのインパクトに一度観たら忘れられなくなる映画なのである。一応、西部劇という体裁なのだが、そんなことはどうでもいいと思ってしまうくらいのショッキングな映像のオン・パレード。ぼくがよく憶えているのは血の池に死んでいるガンマンの姿や、大量のうさぎの死骸そしてフリークスたち。まだ肉のついてる動物の頭蓋骨も出てきたのではなかったか?なんともグロテスクなのだが、独特の感性と色彩美が頭の中でハレーションを起こすような映画である。いってみれば、これこそがカルト映画なのだろうね。これを観てる自分を誰かに見られたら人格を疑われるんじゃないかと思ってしまうくらいなんともヤバい映画だったのである。

 カルトでヤバいといえばやはりこれを挙げなければならないだろうと思うのがジョン・ウォーターズ監督の「ピンク・フラミンゴ」である。これこそが本当に誰からも隠れて観なければいけない映画なのだ。いまこれを書いてるうちにも色々思い出して気分が悪くなってきたのだが、この映画は最低最悪の映画として永遠に語り継がれる作品であり、あの「悪魔の毒々モンスター」なんておとといきやがれ!ってくらい正真正銘の最低映画がこの作品なのである。

 なにがスゴイといって主役をつとめるドラッグ・クイーンのディヴァインの強烈なキャラクターは特筆ものなのだ。ぼくが観たのは修正版なのだが、最近は無修正の作品も出てるらしい。でも、それはほんとに観たくない。この作品を無修正で観る勇気はぼくにはありません。世界で最も下品な人間を競うというなんともクダラナイ内容もさることながら、実際にそれをやってみせる登場人物の姿には嫌悪感しか感じない。くわしくは語らないがこの映画には性器やゲロ、排泄物がこれでもかというくらいに出てくる。ラストにディヴァインが『ある物』を食べてしまうのだが、これは一生ぼくの脳裏に焼きついているだろうと思われる。こんな映画が世の中にはあるんだな。ほんと、びっくりしてしまう。


 上記の二作品にくらべれば、まだマシな作品だがそれでも強烈な印象を残してくれるのがピーター・グリーナウェイ監督の「ZOO]だ。たぶん乙一の「ZOO」のモチーフはこの映画なのだろうね。だって死体が腐敗していく過程を記録するっていう部分がそっくりだものね。というわけで、この映画で記憶に残っているのはその部分だけだったりする。動物が腐敗していく過程を撮影し続けているのである。双子の兄弟が出てたような気もするが、よく憶えていない。とにかくこの映画でインパクトを与えてくれるのは生あるものが朽ちていく過程なのである。

 日本の映画にもなかなかスゴイのがあって、以前に夜中にテレビでやってたのを観て悪夢にうなされたのが寺山修司の「田園に死す」である。これは、たぶん子どもが観たら、白目向いて失神しちゃうんじゃないの?それぐらい人を不安にさせる映像のオン・パレードなのである。恐山や白い顔の登場人物、途中、途中で挿入される寺山修司の短歌、『死んでください、お母さん』と唄われる挿入歌も凄ければ、サーカス団の不気味な人々や、賽の河原に集う死児たちの不気味な姿も恐ろしい。一応筋はあるのだが、そんなのはあまり重要じゃないと思えるほど脳を攪拌させ、恐れを抱かせる映画である。ラストの叫びの場面などは背筋が寒くなってしまった。これはもう一度観たいとも思うのだが、いまでも観れるのかな?あ、それとこの映画に登場する少年は「バロム1」に出てたあのハンサムな方の少年だったと思うのだが、違うかな?

 とまあ、以上がいままで観てきた映画の中でも最低最強の『厭な映画』なのである。さて、みなさん、もし長々と書いたこの記事を最後まで読んだ方がおられましたら、感想などきかせてくださいませ。どれだけ厭な気分になったか知りたいのでございます。ああ、厭だ厭だ。