つか こうへいといえば、やはりぼくは映画が真っ先に思い浮かぶのである。先にもちょっと書いたが、
1985年に製作された「二代目はクリスチャン」は映画館で観たのだが、これがかなりおもしろかった
のでいまだに記憶に残っている。ちなみにこの時同時上映されていた作品は、あまり記憶に残ってない。
それがなんて映画だったのかも忘れてしまった。あの映画のおもしろいところは前半はコメディ、後半は
ヴァイオレンスと映画の色調がコロッと変わってしまうところで、そのコントラストの鮮やかさに心を掴
まれてしまうのだ。機会があれば、是非ともまた観てみたい映画である。
そんなつか こうへいの小説を初めて読んだのは高校生の頃だったか。ミステリにかぶれていたぼくはタ
イトルだけで「小説 熱海殺人事件」を手に取り、その世界観に泡を喰ったのである。まだ演劇というも
のを理解してなかったぼくにはこの感覚はあまりにも突飛で現実離れしていて、そして魅力に乏しかっ
た。それ以来つか作品は一冊も読んでいない。映画化作品は結構好きだが、彼の小説はぼくには合わない
と思ってしまったのだ。
そんなつか こうへいの作品を久しぶりに読んでみた。本書で語られる伊豆大島の三原山での二度にわた
る自殺行の同伴者という話は実際にあった話だそうで、まさしくその事件を描いた作品に高橋たか子の
「誘惑者」という作品がある。これはぼくも偶然古本屋で手に取ってあらすじを読んで、その共時性に驚
いたのだが、本書を読んでるときにたまたまその本を手に取るという奇遇がほんとにあるんだなとちょっ
と感動した。で、本書で描かれるファム・ファタール、野火止玲子(のびどめ れいこ)は学生の頃に二
度に渡り友人の自殺行に同行して三原山を訪れている。一回ならまだしも二回も友人の自殺に同行してい
るのはおかしいとて警察も動くのだが、彼女が自殺を幇助したという証拠も見つからず世間の耳目を集め
てこの件は一応の終息をみる。しかし、物語はここからはじまるのである。この野火止玲子は成人してス
ターとなる。類稀なる美貌とミステリアスな雰囲気、彼女は少しづつだが地歩を固め、芸能界でその地位
を高めていく。だが、彼女には人に言えない過去の秘密があった。友人の自殺行以外にも暗い過去があっ
たのだ。いったい、彼女の身に何があったのか?
ちょっとサスペンス調で紹介してみたが、本書の内容はこんな感じである。ファム・ファタールとしての
玲子の魅力と彼女の過去の秘密。これが本書の読みどころだ。物語は玲子の過去を暴きながら淡々とすす
められてゆくのだが、そこにあまりドラマティックな要素がないのが玉に瑕だ。本書の語り手を玲子を信
奉する女の子に設定してあるのがその要因なのだろうが、これはあまり好ましくなかった。だが、本を閉
じる気にはさせないおもしろさがあったのも事実。次のつか作品はもちろん「二代目はクリスチャン」を
読みまするぞ。